最新記事

追悼

モハメド・アリの葬儀に出る大物イスラム政治指導者とは

2016年6月7日(火)17時00分
ヘンリー・ジョンソン

Action Images / Sporting Pictures/File Photo

<ボクシング・チャンピオンであると同時にイスラム教徒で人権活動家だったモハメド・アリは、紛争と差別に苦しむイスラム諸国共通の英雄でもあった>

 ボクサーのモハメド・アリが6月3日に亡くなった。アリはイスラム教に改宗した最も著名なアメリカ人アスリートとして、イスラム教徒のファンたちの大きな共感を呼んだ。したがって、パキスタンからバングラデシュ、チェチェンにいたるイスラム世界の政治指導者たちがアリの死を公然と悼んだとしても、驚くには値しない。

 なかでも2人のイスラム国家元首──ヨルダン国王のアブドラ2世とトルコ大統領のレジェップ・タイップ・エルドアンは、イスラム世界におけるアリの重要性を示すため、6月10日にアリの故郷であるケンタッキー州ルイビルで行われる葬儀で弔辞を述べることになっていると、遺族のスポークスパーソンであるボブ・ガンネルは言う。葬儀はあらゆる宗教・宗派の違いを超えたものになる。

 アリは、ボクシングで3度世界王者の座を奪う間にも努めてアフリカや中東の国々を訪れて民族主義や反植民地主義の指導者たちに親愛の情を表し、世界中のアリ・ファンのイスラム教徒たちに愛された。

【参考記事】モハメド・アリは徴兵忌避者ではない

初めて抱きしめてくれた白人指導者

 アリのトルコとの結びつきは、1976年10月のイスタンブール訪問にさかのぼる。この訪問はあまり知られていないが、アリはそのとき、のちのトルコ首相ネジメッティン・エルバカンに面会している。

 エルバカンはイスラム主義者でのちに政治活動を禁じられた人物だ。今の大統領のエルドアンはその門弟で、公正発展党(AKP)を設立したのちに、2003年にトルコ首相、2014年から現職にある。

 アリは、イスタンブールにある「スルタンアフメト・モスク」(通称ブルーモスク)でエルバカンとともに祈りをささげたことがある。伝えられるところによると、アリはその出来事について「白人の指導者がわたしを抱きしめてくれたのは初めてだった」と語ったという。

 アリはトルコ滞在2日目に、ボクシングから引退して「全精力をイスラム信仰の布教に注ぐ」と宣言した。実際にアリが引退したのは、それから数年リングで戦った後のことだったが。

 トルコ政府の古参議員はアリとの思い出を懐かしく振り返っており、エルドアンもアリについてて以下のツイートを投稿している。

上段:ボクシングの英雄モハメド・アリは生涯、人種主義や差別と戦った。我々はその戦いを忘れない  下段:モハメド・アリにアラーの恵みを。彼の勇気と信念と決意は人類に啓示を与えた


 またアフメット・ダウトオール前首相はトルコ語で次のようにツイートした。「拳ではなく、心と魂で闘った人権の擁護者モハメド・アリを、アラーのご慈悲が抱擁せんことを」

 アリの政治活動はイラン・イラク戦争にも及んだ。1980~88年にかけて、近代史上、最も凄惨な国境紛争に数えられる戦いを繰り広げた両国を、アリは1993年に訪問。双方の戦争捕虜の解放が確実になされるよう尽力した。国営イラン通信(IRNA)は6月4日、アリが宗教的に意義のある土地を訪問したり、イラン当局者たちと会談したりした際の写真を公開した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中