最新記事

離脱派

守ってもらいたい人々の反乱──Brexitからトランプへ

2016年6月28日(火)16時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

 小さな政府論の急先鋒とみられてきたティーパーティー運動も、背後にある衝動は同じである。ティーパーティー運動は、「政府は私のメディケアに手を出すな(Keep Your Government Hands Off My Medicare)」という標語を使ってきた。「そもそもメディケアは政府の制度じゃないか」とあざ笑うのは簡単だが、そこには特権喪失に対する高齢者の危機感が見事に映し出されている。

政府に頼らざるを得ないワーキングクラス

 ワーキングクラスは、政府に頼らざるを得なくなっている。ワーキングクラスとは、製造業の労働者など、所得階層でいえば「中の下」に属し、それほど学歴が高くない人々を指す。グローバリゼーションや技術革新に脅かされ、貧困への転落を恐れている人々だ。

【参考記事】英国EU離脱。しかし、問題は、移民からロボティックスへ

 ワーキングクラスにとって、収入源としての社会保障の重要性は高まる一方である。所得階層が「中の下(下から20~40%)」に該当する家計の場合、政府からの移転所得が収入に占める割合は、1980年の20%から、2013年には35%にまで上昇している。

 ワーキングクラスは、社会保障制度を通じた政府への依存を恥じているといわれる。それでも、同じ共和党支持者で世論調査結果を比較すれば、学歴が低い支持者(ワーキングクラスに代用)の方が、高学歴の支持者よりも社会保障制度に好意的である。

 高齢者とワーキングクラスは、イギリスではEU離脱派に多く、アメリカではトランプ支持者に多い(図表3)。守られたい人々の衝動が、先進国の政治を揺るがしている。

yasui0628-03.jpg

<ニューストピックス:歴史を変えるブレグジット国民投票


yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中