英国EU離脱。しかし、問題は、移民からロボティックスへ
確かに、「21世紀の世界首都」である恩恵が多いのも確かだ。世界的な大企業が多く、世界で最も外国人旅行者が訪れる都市に成長。それによる雇用拡大もが大きかったが、イギリス人労働力から安価なEUからの移民に流れていき、全体的に疲弊。これによって、EU離脱運動が起きることになる。その中心人物は、他でもない第二代ロンドン市長のボリス・ジョンソンなのである。
移民労働者をロボティックスに移し替える移行段階
しかし、移民やグローバル化による安価な労働力の移転は、すでに過去のものだと僕は確信している。例えば、英国と同じようにEU統合の光と影を持つドイツを代表する企業アディダスは、東西ドイツが合併後、すぐさまスニーカー工場をアジアに移転し、安価な労働力と国際的なマーケティングで、この25年大きく成長してきた。だが、今年に入って「脱アジア」を表明。ドイツ国内の最先端ロボティックス工場で、スニーカーの生産を本格的にはじめると発表したのだ。
また、移民流入を防ぐ最初にして最後の壁である入国審査が、次々と自動化している。かつては、英国同様に厳しい入国審査があったオーストラリアは、昨年から「スマートゲート」の実験を開始した。パスポートをスキャナーに入れ、無人デジタルカメラの撮影が終われば、1分で終了する。この6月20日から、ついに本格運用されることとなった。その前提条件は、対象国のパスポートを持っていること。そして16歳以上であること。このふたつだけである。実際、僕もつい先日オーストラリアへ入国してみて拍子抜けした。さらに香港は、無人化ゲートを使うには事前登録が必要だが、その前提条件は、航空会社のマイレージステータス・カードを持っていれば、誰でも可能。今後、入国審査は無人、すなわちロボットの仕事となるだろう。
こう考えると、イギリスのEU離脱とロボットによる無人入国審査は、別の問題ではない。10年前にはあれほど多くいたロンドン市内のスーパーのポーランド人レジ打ちが次々無人になり、そして、いまや入国審査までもがロボティックス化に向かっている。
すなわち、イギリスに流入する移民をせき止め、再び労働力をイギリス人の手に戻すのではなく、移民労働者をロボティックスに移し替える移行段階に現在はある、と理解するのが正しい。移民か、それともロボットか。そのふたつの未来が対峙する象徴が、国境に設置された無人化ゲートなのである。
たとえ、EU離脱に賛成した投票者が理解していなくとも、この流れは止められない。グローバル時代からロボティックス時代へ。入国ルールが変わる数年後のイギリス国境が無人化した際、多くの人たちは、自分たちの未来に気がつくことになるのだろう。
この筆者のコラム
インターネットの進化速度を越える「遺伝子解析」に注目せよ 2016.10.03
英国EU離脱。しかし、問題は、移民からロボティックスへ 2016.06.27
電気自動車からドローンまで「次のIT」を支えるあの電池 2016.05.25
「拡張するインターネット」としてのドローン 2016.04.07