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天安門事件から27年、品性なき国民性は変わらない


「革命、反革命、不革命。
革命者は反革命者に殺される。反革命者は革命者に殺される。不革命者は、革命者と見なされて反革命者に殺されるか、反革命者と見なされて革命者に殺される。あるいは、何でもないものとされて革命者、もしくは反革命者に殺される。革命、革革命、革革革命、革革...」(『魯迅評論集』竹内好編訳、岩波文庫、1981年)

 中国の革命とは、動乱によって古い支配者が倒れても、次に登場するのはまた同じような支配者にすぎない。清朝時代の小役人は肩書をすり替えただけで、相変わらず同じ地位に居座っている。新たな支配者はまたぞろ汚職にまみれた官僚社会を形作った。なんと浅ましい姿だろうか。「革命」とは、いったいどういうことなのかと、魯迅は思ったのである。

 平和で進歩的な国家をつくるにはどうしたらよいのか。魯迅は悩んだ末に、ひとつの方向性を見出した。

 国民性の改造――である。

 国家と国民の関係は、表裏一体のものである。国民に品性がなければ、国家にも品格など備わるはずがない。品性下劣な人間は汚職にまみれた支配者だけに限らず、抑圧されていると信じこむ者のなかにも、他力本願と自己愛の精神構造がしみ込んでいる。

 平和で進歩的な国家を創出するための努力をするのと同時に、健全な心を持つ国民を育成することこそ大切なのだ。魯迅はそのために数々の小説を書き、辛辣な言葉で国民のえげつなさを告発し、社会に警鐘を鳴らした。

 今年は魯迅が没して80年がたつ。だが、今、国民性は改善されたのだろうか?

 その答えはおおいに疑問だ。国家権力の関与しないはずの社会問題で、人間性を疑うような残虐な事件は後を絶たない。有毒物質入りの食品販売や偽ブランドの数々も目に余る。マナーの悪さは世界中から指摘されている。

 国民性の改造は、100年前の辛亥革命の時代も、27年前の天安門事件のときも、そして21世紀をむかえて経済発展した現代でも、中国の宿命的な課題のひとつなのではないだろうか。

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[執筆者]
譚璐美(タン・ロミ)
作家、慶應義塾大学文学部訪問教授。東京生まれ、慶應義塾大学卒業、ニューヨーク在住。日中近代史を主なテーマに、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。著書に『中国共産党を作った13人』、『日中百年の群像 革命いまだ成らず』(ともに新潮社)、『中国共産党 葬られた歴史』(文春新書)、『江青に妬まれた女――ファーストレディ王光美の人生』(NHK出版)、『ザッツ・ア・グッド・クエッション!――日米中、笑う経済最前線』(日本経済新聞社)、その他多数。

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