欧州ホームグロウンテロの背景(2) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く
テロに関与したなどの疑いで米国とスペインの両捜査当局から手配された彼は、〇五年にパキスタンで拘束され、米軍に引き渡された。身柄は、対テロ戦争を進める米国と当時まだ良好な関係を維持していたシリア当局の管理下に置かれた。以後、消息は途絶えた。
「二〇一一年にシリア当局が彼を無傷で釈放した、とのうわさが出ました。過激派の内部に彼を戻らせてジハードのウイルスをまき散らし、組織を攪乱させるため、といいます。ただ、その後四年間にわたって動向が一切漏れないのは、どう考えても変です。シリアで情報が途絶えるのは、決していい知らせではありません。もしスーリーが生きているとすれば、案外とフランスに舞い戻ってきて、ガソリンスタンドの従業員とか原発の技師とかをしているかも知れませんが」
スーリーは相変わらずシリアで獄中にある、との情報もあり、確かなことはわからない。ただ、本人の運命と関係なく、彼が残した思想は現代のサイバー空間を広がり続けている。拘束される直前、スーリーは一六〇〇ページに及ぶ大論文『グローバルなイスラム抵抗への呼びかけ』を、ネットを通じて発表した。第三世代ジハードの理論と戦略を確立し、多くのテロリストたちに共有されるようになった文書である。
手づくりのテロ工房
イスラム教徒の大衆を動員し、世界を制覇することにスーリーの目的があるのは、アル・カーイダと同じである。ただ、彼が描く戦略は、アル・カーイダのものといくつかの点で大きく異なっている。
まず、標的はもはや、米国ではない。
「ビン・ラーディンは、米国をひざまずかせることが可能だと思っていたが、できなかった。そういうやり方ではだめだ、欧米文明の弱点を突かなければならない、それは欧州だ。スーリーはそう考えたのです」
手法も根本的に変わった。米同時多発テロのような大スペクタクルは必要ない。安上がりの作戦をあちこちに展開するだけで、欧州社会はパニックに陥るだろう――。
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手法が異なる以上、アル・カーイダのようなピラミッド型の組織も不要だ。自立した個人や小さな組織が網の目のようにつながり合うネットワーク型の組織こそ、現代のテロには都合がいい。
「第三世代は、アル・カーイダとは全く異なるモデルを組み立てました。熟練の実行部隊を派遣するのではなく、現地に暮らす若者に対し、原理を薄く植え付ける。一度ぐらいは中東の戦場で訓練を施すかも知れないけれど、あとは彼らの自主性に任せるのです」