最新記事

アフガニスタン

タリバン指導者殺害で何が変わるか

2016年5月25日(水)17時00分
アシシュ・クマール・セン(米大西洋評議会)

Fayaz Aziz- REUTERS

<米軍のドローンがイスラム原理主義勢力タリバンの最高指導者マンスールをパキスタンで空爆、殺害した。パキスタンの主権侵害も辞さずに攻撃を実施したオバマ米大統領の目的はこれで叶うのか> 写真は、パキスタンのペシャワルでマンスールの記事を読む人

 タリバンの最高指導者アクタル・ムハマド・マンスールは5月21日、パキスタンで米軍の無人機攻撃で殺害された。テロリストがパキスタン内に聖域を持つことは許さないというアメリカの意思表示だと、2012~14年まで駐アフガニスタン米大使を務めた大西洋評議会のジェームズ・カニンガムは指摘する。

 パキスタンで身の安全を確保しながら外の敵に脅威を与え続けるタリバンの戦略を、米政府はこれ以上見過ごさないという最初のメッセージだというのだ。

「テロや武装闘争で自分たちの国を取り戻せるなどという幻想を、タリバンは捨てなければならない。これまでタリバンの安全な避難所になってきたパキスタンで揺さぶりをかけるのはいい方法だ」

 マンスールは21日、アフガン国境に近いパキスタンのバルチスタン州を車で移動中に殺害された。

 オバマ米大統領は23日、「アフガニスタンの平和と繁栄に向けた長期にわたる努力のなかで重要な節目となる」と述べ、マンスールの死亡を確認した。

【参考記事】オバマに公約を撤回させたタリバンの勢力拡大

「罪のない無数のアフガン国民の命を犠牲にした暴力を終わらせようと和平交渉に取り組むアフガン政府の努力を拒否した」と、マンスールを非難した上、タリバンに対して、この長い紛争を終結させる唯一の道はアフガニスタン政府との和平協議に参加することだと呼びかけた。

 米軍がパキスタンの国境地帯を越えた領内でタリバン指導者を空爆したのは今回が初めてだ。2011年に米軍特殊部隊がアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを、パキスタン軍の駐屯地があるアボタバードで殺害したときは、米パ関係がかつてないほど悪化した。今回のドローン空爆に対しても、パキスタン外務省は主権侵害だと抗議した。

 一方、米政府は以前から、パキスタンの軍や情報機関が、タリバンやタリバン系武装組織ハッカニ・ネットワークなどのテロ集団を匿ってきたと非難してきた。実際、タリバンの上層部はパキスタン西部クエッタを拠点にしている。

【参考記事】タリバンの心配は米軍増派にあらず

和平への見通しは?

 タリバンと和解する姿勢を示していたアフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領の取り組みは昨年7月、タリバンの創始者だった最高幹部ムハンマド・オマルが約2年前に死亡していたと判明して以来、暗礁に乗り上げていた。

 オマルの右腕として知られたマンスールが最高幹部の座に就いたが、それは組織内の抗争で亀裂が深まった末のことだった。和平に向けてはアフガニスタン、パキスタン、アメリカ、中国の4カ国協議が続いているが、実効性のある話し合いには至っていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中