最新記事

日本

オバマ広島訪問より大切なものがある

2016年5月20日(金)16時00分
辰巳由紀(米スティムソン・センター主任研究員)

Issei Kato-Reuters

<アメリカ大統領の被爆地訪問は歴史的な行為だが、そのために直前に行われる伊勢志摩サミットの議論がかすんではならない>

 現職の米大統領は、広島に行くべきか──この問いは政治面で非常に微妙な問題だ。

 米ホワイトハウスは先週、オバマ大統領が自身にとって最後のG7となる伊勢志摩サミットへの出席に合わせ、広島を訪問すると発表した。安倍首相も同行する。

 先月、ケリー米国務長官がG7外相会議で広島を訪れた際、広島平和記念資料館に足を運んだ。以来、オバマが広島を訪問するかどうかが注目されていた。

【参考記事】「ケリー広島献花」を受け止められなかったアメリカ

 オバマにとって広島訪問は、核兵器廃絶に向けた長年の取り組みを示すことになる。彼は09年、プラハで行った演説で「核なき世界」の実現を高らかに呼び掛けた。

 その一方で広島、そして長崎への原爆投下は、果たして正当化できるのかという問題がある。「オバマは広島を訪れるべきだ」と「訪れるべきではない」という相反する意見には、それぞれを強く支持する材料をいくらでも集められる。

 だが、ともかくオバマは広島へ行くことにした。オバマの広島訪問から予期すべきこと、予期すべきではないことは、それぞれ何だろう。

謝罪はしない

 まず日米両国は、オバマの広島訪問は過去と同じくらい、未来に対して意義があると訴えるだろう。

【参考記事】安倍首相の真珠湾献花、ベストのタイミングはいつか?

 オバマと安倍が共に広島を訪れれば、核兵器廃絶という目標に両国が精力的に取り組んでいるという強いメッセージになる。さらに、北朝鮮が防衛目的と称して核兵器開発を継続している時期に、両首脳が核拡散防止を働き掛けていると訴えることにもなる。

 第2にオバマは、広島を訪問することで米大統領が原爆投下について謝罪した、と受け取られる発言は慎重に避けるだろう。しかし日本では、オバマが広島を訪れること自体、原爆が引き起こした恐怖と悲惨さを米大統領が認め、礼節を持ってその事実を思い起こしたと受け止められる。いずれにせよ、オバマの広島訪問は、日米関係にとって間違いなくプラスになる。

 だが日米両国が考えるべきなのは、各国首脳が伊勢志摩サミットで話し合う世界的な議題の中に、オバマの広島訪問をどう位置付けるかだ。ケリーが原爆資料館と平和記念公園を訪れたのは、外相会議が終わった後だった。一般の関心は、各国外相の合意内容より、ケリーの広島訪問に集まった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中