最新記事

ニュースデータ

低収入の教職に優秀な人材は集まらない

2016年4月26日(火)15時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

 なお、教員給与の相対水準は、日本国内の地域別に見てもかなり違いがある。<図2>は、公立中学校教員の月収が大卒労働者全体の何倍かを都道府県別に計算し、地図にしたものだ。

maita160426-chart02.jpg

 東北や九州では、教員給与が民間を上回る県(倍率1.0以上)が多い。民間の給与水準が低いためだ。しかし都市部では様相が変わり、関東地方は民間比0.9以下を示す真っ白で占められ、東京や神奈川などは民間のおよそ7割だ。大都市では、教員が抱く「相対的低収入感」が大きいかもしれない。

 ちなみに教員給与の水準は、教員採用試験の競争率ともプラスの相関関係にある。優秀な人材を引き寄せられるかどうかは、待遇の良し悪しと関連している可能性がある。

【参考記事】大卒の価値が徐々に低下する日本社会

 総体的に見ると、教員の給与は決して高くない。「子どもに知識や技術を教える専門職なのに、普通の労働者より給与が安いとはいかがなものか」と考える人もいれば、「教員が扱っているのは専門的な知識ではなく、一般の労働者より労働時間も短い」という意見もあるだろう。

 2012年8月に公表された中央教育審議会答申では、教員を「高度専門職」とみなす方針が明言されたが、実際に教員が専門職かどうかについては議論がある。単純作業に勤しむ労働者ではないが、医師や研究者のように高度な自律性を認められた専門職と言い切るのははばかられる。そこで「準専門職(semi-profession)」という苦肉の表現も使われている。

 このような立ち位置の曖昧さが、教員給与の適正水準を測るのを困難にし、教員自身の心的葛藤の要因にもなっている。

 現行の教員給与を引き上げるべきだという意見もあれば、その逆もあるだろう。その議論の決着は、教員を高度専門職と位置付けるかどうかにかかっている。

<資料:OECD「Who wants become a teacher」
    文科省『学校教員統計調査』
    厚労省『賃金構造基本統計調査』

≪筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ボーイング、人員削減に伴い業務移転か 労組が調査開

ワールド

NZ、海外投資誘致に向け規制緩和 専門部署も設立へ

ワールド

韓国捜査当局、尹大統領を送検 内乱首謀や職権乱用で

ワールド

トランプ政権、司法省キャリア職員約20人配置転換 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中