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台湾蔡英文の新台湾総統就任まで1カ月、圧力強める中国
独立派の蔡英文は対中関係をどうしていくのか?
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4月21日、蔡英文氏(写真)の新台湾総統就任を約1カ月後に控え、中国は同国に対する圧力を強めている。反中感情の波に乗って当選した独立派の蔡氏にとって、前途多難なスタートになりそうだ。写真は3月18日、台湾で撮影(2016年 ロイター/Tyrone Siu)
蔡英文氏の新台湾総統就任を約1カ月後に控え、中国は同国に対する圧力を強めている。反中感情の波に乗って当選した独立派の蔡氏にとって、前途多難なスタートになりそうだ。
中国はこの数週間で、かつて台湾と外交関係のあったガンビアと国交を回復。一方、ケニアで通信詐欺に関与したとみられる台湾人を中国に送致させた。犯罪として扱われるよりも政治的に対処されたとして、台湾側はこれを非難している。
台湾はまた、中国と台湾の高官をつなぐホットラインにおいて、中国が最近の緊急時に2度返事をしなかったことを明らかにした。
中国は、台湾を言うことの聞かない自国の一部と見なしている。必要とあらば力づくで引き戻し、親中の台湾現政権と同様、新政府も「一つの中国」政策を堅持してもらいたいと考えている。
「中華民国」としての台湾を認めているのはわずか22カ国で、ケニアを含む大半は北京に指導者がいる「中華人民共和国」と外交関係を結んでいる。
台湾は中国にとって、最も神経質な政治問題の一つであり、共産党の懸案事項の中核をなしている。南シナ海の領有権問題よりも大きい。
今年1月に行われた選挙で蔡英文氏と同氏率いる民主進歩党(民進党)が圧勝してから、中国政府は同氏の動向を注視していくと繰り返し警告している。蔡氏は5月20日に総統に就任する。
2008年に国民党の馬英九氏が総統になって以降、ハイレベル協議が定期的に行われるなど、中国との間で培われてきたかなり良好な関係が危険にさらされる恐れがある。
北京にある清華大学の台湾専門家、Chen Qinhao氏は人民日報のなかで、もし蔡氏が対中政策を説明しないなら、中国と台湾の対話が断たれるリスクがあると指摘する。
台湾の当局者も、情勢を見極めているような状況だ。
国家安全局は異例にも、ガンビアの動きは「中国の期待に沿う」よう蔡氏に圧力をかけるためだとしている。
一方、中国との平和を望み、体制を維持したいとする蔡氏は、これまで自身のフェイスブックもしくは党を通してしか語っていない。
「(ケニアからの)台湾人の国外退去に関する問題で、われわれを代表する権利など北京にはない」と、台湾籍の人たちが詐欺に関与したとしてケニアから中国に強制的に送致された問題について、蔡氏は先週フェイスブックにこう記した。
<意図的な無関心か>
台湾によれば、中国は時折、意図的に対話を避けているという。
台湾問題を担当する中国当局トップである国務院台湾事務弁公室主任の張志軍氏は、ホットラインで台湾側がガンビアの件で同氏と連絡を取ろうと躍起になっていたとき、オフィスにはいなかった。
また、台湾の中国政策を主管する行政院大陸委員会によると、ケニアの件で連絡が取れるようになるまでに少なくとも2日かかったという。
「意図的に無関心を装っているのか」と、民進党幹部のLiuShyh-fang氏は語った。
中国の国務院台湾事務弁公室はコメントの要請に応じなかった。
中国側は、通信詐欺事件をめぐる騒動に激怒しており、これは単なる刑事事件だと主張している。
中国はまた、マレーシアから台湾に送致された通信詐欺の容疑者が釈放されたことを受け、台湾は中国人の被害者を無視していると非難。これに対し、台湾側は証拠不十分だったとしている。
こうした通信詐欺事件をめぐり、一部の中国国営メディアは、蔡氏を名指ししなかったとしても、非常に個人的な攻撃を行っている。
19日付の海外版「人民日報」は一面の社説で、「高い給料と票の上にただ安穏としているある特定の議員たち」は、犯罪撲滅について考えるよりも、自分たちを救世主やヒーローとして演出していると痛烈に批判した。
中国政府は、蔡氏が中国政策を明確にすることを望んでいるが、同氏は口を閉ざしたままだ。
その背景には、中国軍の存在がある。
中央軍事委員会副主席の許其亮氏は先週、台湾の対岸に位置する福建省の部隊を訪れ、軍事力強化に励むよう激励した。
中国軍は先月、1949年に内戦で国民党が台湾に逃れたのに続き国民党軍に勝利した、重要だがあまり知られていない記念日を祝ったが、このことは中国軍が今なお台湾を中国の戦略的優先事項の一つと考えていることを思い起こさせる。
「われわれは『台湾を再統合せよ』と大声で叫ばなくてはならない」と、南京軍区副司令官を務めた王洪光中将は先月、インターネット上でこのように記した。
(Ben Blanchard記者、J.R. Wu記者、翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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