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自然災害日本とエクアドルの巨大地震は、環太平洋火山帯の地震活動が活発化している結果かもしれない
2004年以降の大地震の頻度は20世紀と比べて2倍以上になっている
地震の活動期? 熊本の本震のすぐ後にM7.8の大地震に襲われたエクアドル Guillermo Granja-REUTERS
熊本県を中心とする九州地方で日本時間14日夜マグニチュード(M)6.5、16日にM7.3の地震が発生、多数の死傷者と被害をもたらした。続く17日(日本時間)には南米エクアドルでもM7.8の地震が発生、19日までに死者は400人を超えた。
太平洋をはさんだ2つの国で相次いで巨大地震が発生したことで、その関連性に注目が集まっている。しかし異なる地域、とりわけ遠隔地で起きた地震が新たな地震の発生にどのように影響を与え得るのかというと、話はかなり複雑だ。
余震
巨大地震は断層がずれることによって引き起こされる。断層の長さはM7クラスで20~30キロ、M9クラスになると1000キロ以上に及ぶ。
本震で地盤が突然大きくずれたために引き起こされる揺れを余震と呼び、主に本震と同じ断層帯上で発生する。余震は大地震が起きた直後にピークを迎え、その後は時間の経過とともに少なくなる。
しかし、周辺の断層面が固着しひずみに大きな力がかかっていると、短い周期の間に更に被害を拡大させる地震が起きる可能性がある。2004年に発生したモーメントマグニチュード(Mw=大きな地震のマグニチュードの単位)9.2のスマトラ島沖地震と翌年2005年にMw8.6を記録したニアス島沖地震は、短期間に集中して発生する巨大地震のクラスタリングの典型として知られている。
スマトラ島沖大地震は、2004年12月26日に発生したMw9.2の大地震と翌年3月に発生しMw8.6を記録したニアス島沖地震をはさむ2004年8月26日から2005年8月25日まで、12か月間という長期に及んだ。表のy軸は地震発生地点の緯度を示す。2004年12月の大地震では、震源地に近いバンダアチェ(青い矢印)から北へ1300キロにわたり断層がずれ、断層上の領域で余震活動が続いた。2005年3月のニアス島沖地震は、2004年の地震でずれた断層の南端に隣接するプレート境界で発生し、長期にわたる余震活動を引き起こした。2005年8月下旬までの9カ月間にM4以上の余震を4500回程度記録し、うちM5以上が560回に上った。表から、余震の規模は時間の経過とともに急速におさまっていくのが分かる。
被災した地域で新たな大地震が起きる危険が最も高いのは、本震発生の直後数日から数週間以内という。
2015年4月に発生したネパール地震(17日間でMw7.8とMw7.3の大地震が発生)は、こうした専門家の説を裏付けるものだ。
17日にエクアドルで発生した大地震を受けて、エクアドル政府をはじめパナマ、コロンビア、ペルーといった周辺諸国が、今後の余震や新たな大地震、津波に対する危機管理対策に万全を期す必要があるのは言うまでもない。
遠隔地で起きた地震の影響
それでは地球の反対側にあたる遠隔地で起きた地震が、新たな地震の引き金となることはあるのだろうか?近年地球規模で地震が頻発しているのは憂慮すべき事態なのか?
大地震が起きると、世界各地に設置された地震計が記録するのが「地震動」だ。地面で観測される地震波は離れた場所にある断層域にも伝わるため、その結果時折小さな地震が引き起こされることもある。
専門家はこの現象を「遠隔誘発」と呼んでいる。実際にいくつかの断層では、遠隔地で発生した大地震の地震波が到達した何時間も後になって遠隔誘発地震が発生した形跡が確認されている。しかし最近の研究では、遠隔地で発生した地震によってM5以上の地震が誘発されたという確たる証拠は得られていない。
前回の地震からどのくらい経てば、その後の地震活動は前回の地震と関連性がないと判断できるのか?
これについてはまだ不明な点が多く、今後は正確な統計分析とともに、最初の地震から遅れて起きる誘発地震が発生しやすい地理的条件に関する研究も求められている。
現時点で分かっているのは、最初の大地震から短期間の間に遠隔地で誘発されるひずみは極めて小さいものの、そのひずみが原因となって遠隔地で地震の頻度が増える可能性も多少はあるということだ。
地球の地震活動は安定していないということも分かっている。例えば、2004年以降に大地震が発生した頻度は20世紀と比較すると2倍以上だ。
1950~1965年にかけても、近年同様の大地震が各地で発生した。数十年単位で地震エネルギーの放出量が変動する理由については、今日に至っても未だ解明されていない。
この図は4月11~18日の間に起きたM4.5以上の地震を示している。発生地域の多くは太平洋周辺に集中しており、日本とエクアドルで発生した大地震後に両地域周辺で地震が頻発したのが分かる。資料:米地質調査所(USGS)
日本とエクアドル
4月16日未明に発生したMw7.3の熊本地震は、横ずれ断層型だった。震源は内陸の深さ10キロ、震源付近の断層帯は50キロに及ぶ。
地震によって土砂崩れや液状化現象、建物の崩壊など、各地に甚大な被害をもたらした。
熊本地震は2010年にニュージーランドのクライストチャーチ近郊で発生したMw7.1の直下型大地震に似ている。
最初の地震ですでに建物の構造が被害を受けているだけに、余震によって更に被害が広がる危険性が増している。ただし熊本地震が発生したのはこれまでにも大地震による揺れが頻繁に観測されていた地域であり、今回のような大地震が発生する可能性はこれまでにも指摘されていた。
2016年4月16日に発生した南米エクアドル沿岸部を震源とするMw7.8の地震は、下位にあるナスカプレートと上位にある南米プレートの境界に面する衝上断層がずれた結果引き起こされた。
この地震の発生場所とメカニズムについては、二つのプレートの間にずれが生じて起きたメガスラスト地震が原因とみられている。
歴史的にも、エクアドルではこの種の地震が繰り返されてきた。1960年には、ナスカプレートと南米プレートがぶつかる境界上で史上最大のMwを記録したチリ沖地震が発生している。そうした経緯から、エクアドルでも将来大地震が起きる可能性があると指摘されていた。
1942年を最後に大地震を引き起こしたナスカプレートに蓄積されたエネルギーと比較すれば、日本で発生した地震がエクアドル沿岸部で懸念されていた地震を誘発した可能性は低いだろう。
日本とエクアドルの地震はいずれも規模が大きく多大な被害をもたらしたうえ、数日という短い間隔で発生した。二つの地震に関連性があるのではないかとメディアが注目するのも仕方ない。
しかし発生時間にずれがあることから、時間を根拠に二つの国で起きた地震に明確な因果関係があるとは判断できない。むしろ一連の地震は、地震エネルギーの放出が活発期に入った中で発生した、太平洋の周囲を取り囲む環太平洋火山帯の地震活動の一環とみるのが自然だ。
Mark Quigley is Associate professor, University of Melbourne
Mike Sandiford is Professor of Geology at the University of Melbourne.
This article is originally published on The Conversation.