予備選で見えてきた「部族化」するアメリカ社会
<サンダース部族>
収入格差がある現状に反発し、古い政治制度を、急速に、根こそぎ変えるべきだと考える理想主義者。30歳以下の若者。社会活動家。白人が多い地域の労働者階級(移民やイスラム教徒への差別心がないところがトランプ支持者とは違う)。労働組合。民主党内の左寄り勢力。民主党員ではない無所属。
<クリントン部族>
フェミニスト、黒人、イスラム教徒、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)、その他のマイノリティ。年配の女性。銃規制推進派。都市に住む高学歴、高収入、高年齢層のリベラル。長年の民主党員。
部族間の争いの問題は、先のルイスによると、政策やイデオロギーよりも「アイデンティティ」のほうが重要になることだ。そして、対立する部族間で敵意が強まることも。
ルイスは、トランプの台頭についてこう説明する。「(ライバルとの戦いが多い)部族では、リーダーを選ぶときの基準は、経験や知恵ではなく力だ。現在私たちが目撃していることの大部分は、基本的にマッチョさ(男らしさ)という下劣なものなのだ。つまり、『あいつらは俺たちをやっつけようと企んでいる。だから、その前に一番タフな奴にやっつけてもらわなくては』という考え方だ。トランプの支持者は、政治の中枢にいるなよなよした候補者の中で、トランプだけを『アルファ(群れを支配する強いオス)』とみなす。それが支持者の主要な論拠なのだ」
部族間の争いが際立ったのが、先月サンダースの支持者がシカゴでのトランプのラリーを閉鎖した出来事 だった。何時間も並んだのに、抗議グループのせいでせっかくのラリーが中止になったことに憤慨するトランプの支持者と、抗議活動のために会場に潜入したグループの間で衝突が起こり、怪我人や逮捕者が出た。
発端は、サンダース支持者の社会運動家ジャマル・グリーンが、フェイスブックで「みんな、このイベントのチケットを確保するんだ。潜入して#Shutitdown(閉鎖)するぞ!」 と呼びかけたのがきっかけと言われている。サンダースを支持する草の根政治運動団体「ムーブオン」も、抗議運動グループの要求に応えてプラカード作りや抗議の参加者集めを援助したことを公表している 。
問題が多い2大政党制の崩壊を歓迎する意見もある。だが、部族化の問題は、アイデンティティが異なる者同士が、このように自動的に「敵」になってしまうことだ。自分とは異なる「アメリカ像」を持つ者も、同様にアメリカ人であり、異なる「アメリカ像」を持つ権利があるのに、部族間の争いがエスカレートすると、自分の部族以外のアイデンティティを持つアメリカ人が許せなくなってしまう。
この、危険なアメリカ社会の「部族化」を止められる大統領が、今の候補者の中から生まれるのだろうか?
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫