予備選で見えてきた「部族化」するアメリカ社会
「僕の職場にH1Bビザ(専門職向けの就業ビザ)の外国人エンジニアがいた。ビザは一時的な処置のはずだ。それなのに、僕が職を失って、奴は10年残っている。これは、おかしいじゃないか? 近所には、だんだん外国人が増えてきて、町の雰囲気も変わってしまった。あなたが大統領になったら、アメリカ人が外国人に職を取られないようにしてくれるのか?」。こう恨みを語る男性にとって、アメリカとは「能力にかかわらず白人男性が職を保証されるべき国」なのだろう。
【参考記事】トランプ旋風を生んだ低俗リアリティ番組「アプレンティス」
ニューハンプシャー州で出会った同世代の人々だけでもこれだけバラエティがある。さらに、第二次大戦後のソビエト連邦との冷戦、公民権運動、女性の人権運動を覚えている世代と、それらが「過去の歴史」でしかない世代では、「社会主義」や「平等」の捉え方が大きく異なる。
問題は、それぞれに自分たちが考える「アメリカ」こそが「真のアメリカ」であり、ほかの「アメリカ像」を受け入れることができない点だ。同じ「アメリカ像」を持つ人と一緒にいれば心地良いし、安心できる。だから、同じ「アメリカ像」を持っている人々が集まって「部族」を作る。そして、それらの部族を代表するのが、今の大統領候補たちだ。
これまでの予備選の出口調査やソーシャルメディアでの発言から、各部族のアイデンティティが浮かび上がってくる。
<トランプ部族>
地方に住む、低学歴、低所得、労働者階級の白人男性。移民とイスラム教徒に敵意を持ち、女性差別も強い。(最近のCNN/ORC世論調査によると、女性有権者の73%がトランプに反感を抱いている)
<クルーズ部族>
中絶や同性愛に強く反対するキリスト教右派、原理主義者。トランプの支持者よりも、教育レベルと収入がやや高めの白人。
<ルビオ部族>(ルビオはすでに予備選からの撤退を表明)
都市に住む、高学歴、高収入、軍事的タカ派の保守。ビジネス優先。成功を収めた裕福な移民。キューバ系アメリカ人。
<ケーシック部族>
政策とイデオロギー上の保守を信じる古いタイプの共和党員。高学歴、高収入の中道右派。