難民に苦痛を強いるレバノンの本音
永住可能な住居の建設を認めないというルールは、いかなる難民支援団体にも適用されている。地元の民間団体でも国際NGOでも、国連機関でも同じだ。
シリア内戦以前からレバノンで活動しているデンマーク難民評議会は13年、「ボックス・シェルター」を考案した。基礎にコンクリート、壁には木材を使用したもので、各地で増加中のベニア板やシートの小屋よりも少しは暮らしやすいと思われる簡易シェルターだ。
しかしレバノン政府は、難民に定住への道を開くという理由でその使用を禁じてしまった。
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この規則に少しでも違反すると当局が嗅ぎつけてくる。例えば3年半前に家族とシリアのホムスからやって来た女性ファティマ(67)のケースだ。「(嵐の際に)小屋に水が入ってこないよう、外側にコンクリートのブロックを置いた。でも去年の洪水では水がブロックを越えて流れ込んだ」と彼女は言う。
最初に置いたブロックに新たなブロックを積むと、兵士が来て「そんなに石を積んでいいと誰が言った?」と言われ、やむなく彼女はブロックを取り除いた。今は、雨が降ると砂利を詰めた袋を積んで、どうにか水の浸入を防いでいるという。
もっとましなシェルターを提供する試みもあった。13年には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がスウェーデンの大手家具メーカー、イケアと協力し、居心地がよくて見た目も惨めではなく、どんな天候からも難民を守れるシェルターを考案した。運搬も簡単で4時間ほどで組み立てられ、屋根にはソーラーパネルが付いていた。
イケア・ファウンデーションが資金を出し、ベター・シェルターという団体がデザインした。「テントでは1年ほどしか持たないし、雪が降ると困る。長持ちするシェルターを提供したかった」とベター・シェルターのデザインチームを率いるジョハン・カールソンは言う。
レバノンの冬は厳しい。昨年の冬、ベカー平原では気温が氷点下15度まで下がった。UNHCRのシェルターなら、暑さだけでなく寒さにも耐えられる。ドアには鍵も付いているので女性も安全に暮らせるはずだ。
難民が定住しては困る
14年2月、レバノン政府は北部のハルバで新しいシェルターの試用を許可した。しかし、プロジェクト開始後すぐに地元の人たちから抗議の声が上がった。「地元のNGOと協力してプロジェクトを進めたが、地元民からNGOに苦情が来た」とUNHCRの広報担当のデーナ・スレイマンは言う。