最新記事

朝鮮半島

ソウルを襲う北朝鮮「ビラ爆弾」の恐怖

今月だけで1万枚もの韓国批判のビラが、おそらくは北朝鮮のドローンによって韓国領内に散布されており、不気味な南北宣伝戦は危険水域に近づきつつある

2016年4月4日(月)15時47分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

「ビラ戦争」がエスカレート 北朝鮮から韓国だけでなく、韓国側からの宣伝攻撃も激化しており、「5月までに1000万枚(のビラ)を飛ばす」と話す対北朝鮮団体関係者もいる(写真は2013年、北朝鮮との軍事境界線近くで北の体制批判のビラに加え、石鹸、靴下、コンドーム、歯ブラシなどを梱包して風船で飛ばす市民団体メンバー) Lee Jae-Won-REUTERS

 朝鮮半島の南北間で緊張が高まるにつれ、双方の宣伝戦、とりわけ「ビラ戦争」がエスカレートしている。

 韓国の聯合ニュースによると、ソウルで北朝鮮から来たものと思われる宣伝用のビラが大量にばらまかれているのが発見され、警察が捜査に乗り出した。発見された場所はソウル市内東大門区。31日の午前0時頃、区内の住宅街に北朝鮮を賛美し、韓国や朴槿恵大統領、米国を非難するビラ8000枚とCD19枚がばらまかれているのが発見された。同時にビラが詰められていたと見られる風船も発見された。

 人的、物的被害はなかったが、今月に入ってから、韓国の各地で数千枚から1万枚の北朝鮮製と思われるビラが相次いで発見された。現在までに散布された数は700万枚に達すると見られており、運搬手段はドローンであると見られている。自動車を粉砕したり、共同住宅の屋上の水道タンクを無慈悲に破壊するなど、単なるビラ配布というより「ビラ爆弾」の体をなしている。

(参考記事:韓国を襲う北朝鮮「ビラ爆弾」、今度は貯水タンクを無慈悲に粉砕

 今のところ、大きな被害は発生していないが、気になるのはドローンの使われ方だ。もしかしたら北朝鮮は、ドローンで韓国領内にモノを落とす訓練をしているかもしれない。そして、さすがに核爆弾や本格的な爆弾を運ぶことは無理にしても、北朝鮮がドローンを利用して、なんらかの小型兵器を韓国社会に運ぶことを想定していてもおかしくはない。

 一方、韓国政府も、北朝鮮の核実験、長距離弾道ミサイルの発射実験に対する報復措置として、対北朝鮮拡声器放送を再開するなど、宣伝攻勢を強めている。

 韓国の対北朝鮮拡声器放送は、昨年8月、地雷爆発に端を発した南北対立をきっかけに11年ぶりに再開された。たかが放送、と思われるかもしれないが、その後の南北会談で、北朝鮮側は対北朝鮮放送を止めるよう強く要求。粘りに粘って合意を取り付けた経緯から、北朝鮮を最もナーバスにさせる心理戦手段であることがうかがえる。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士...北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送 -EUが米ファイザーRSVワクチン承認拡大、

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中