移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか
欧州各国は5億ユーロの予算で1200キロに及ぶ移民防止フェンスを建設
4月4日、移民・難民の流入を防ぐために障壁を築いたEU加盟国は10を超える。子どもたちが3分の1を占める移民・難民1万人以上が、フェンス近くの粗末なテントで暮らしている。ギリシャのイドメニ付近で3月撮影(2016年 ロイター/Marko Djurica/Files)
欧州連合(EU)委員会のアブラモプロス委員(移民・内務 担当)は先月初め、ぬかるみに苦労しつつ、マケドニア国境沿いにあるギリシャの難民キャンプを視察。数万人の難民を足止めし、北に広がる豊かな国々への進路を阻む、有刺鉄線を張りめぐらせたフェンスを見つめた。
「フェンスを築き、有刺鉄線を張りめぐらせても、解決にはならない」とアブラモプロス氏は言う。
アブラモプロス氏はこれまで常にそのメッセージを声高に主張してきたわけではない。同氏の見解の変化は、2015年の初め以来、100万人以上の難民がギリシャの海岸に押し寄せるなかで欧州が巻き込まれた混乱を物語っている。
2012年、アブラモプロス氏が国防相を務めていたギリシャは、トルコ国境沿いにフェンスを築き、電子監視システムを導入した。コンクリートと有刺鉄線による障壁と、2000名近く増員された国境警備員は、不法移民の急増を食い止めることを意図していた。
62歳の元外交官であるアブラモプロス氏は、このプロジェクトには直接関与していない。だが同氏は2013年、この壁は成果を上げたと会見で発言し、プロジェクトを擁護した。「この方面からギリシャに流入する不法移民の数は、ほぼゼロになった」と彼は語った。
移民危機に対する欧州の公式の対応は、ドイツのメルケル首相が昨年8月に提唱したように、各加盟国が協力し、特に戦火と迫害を逃れてきたシリア難民に避難所を提供する、というものである。
だが現実は、ほとんどの加盟国が割当通りの難民を受け入れておらず、移民・難民の流入を防ぐために障壁を築いた国も10を超える。EUは現在、新規の難民をトルコに戻すことになる協定を導入しようと試みている。
第2次世界大戦の瓦礫(がれき)から生まれたEUの基礎の一つは、加盟国間の移動の自由という原則である。