移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか
だが、ロイターが公式のデータを分析したところ、ドイツの「ベルリンの壁」崩壊以来、欧州各国は少なくとも5億ユーロ(約630億円)のコストをかけて、総延長1200キロに及ぶ移民防止フェンスを建設、あるいは着工している。米メキシコ国境のほぼ40%に相当する長さだ。
こうした障壁の多くはEU加盟国をそれ以外の国と隔てるものだが、パスポート不要地域を含めた、加盟国同士を隔てるフェンスもある。ほとんどが2015年に建設開始したものだ。
「EUに流入しようとする移民・難民が多いところでは、必ずフェンスを築くという流れになっている」と語るのは、人権団体アムネスティ・インターナショナルで欧州移民問題を研究するアイレム・アーフ氏だ。
各国政府にとって、フェンスの構築は手軽な解決策に思える。完全に合法的だし、入国者を管理する権利を有するからだ。欧州に新たなフェンスが築かれるたびに、隔てられた経路で流入する不法移民の数は急減している。
少なくとも、フェンスの恩恵を得ている企業が1社はある。英仏海峡横断トンネルを運営するユーロトンネル社では、昨年10月にフランス側のターミナル周辺で大規模な保安設備更新が行われて以来、移民を原因とするトラブルはなくなったという。
ユーロトンネルの広報担当者ジョン・キーフ氏は、「2015年10月半ば以降、サービスの停止はない。フェンス建設と警備員の追加という組み合わせは、非常に効果的だったと言える」と話している。
だが少なくとも短期的には、フェンスは欧州に入ろうとする人々の数を減らしてはいない。代わりに、より時間のかかる危険なルートを選ぶようになっただけだ。
人権団体によれば、欧州法は公正かつ効率的な難民申請手続を利用する権利を万人に認めているにもかかわらず、一部のフェンスによって、難民申請希望者の避難先を探すチャンスを奪っているという。
別のルートを探さざるを得なくなると、移民・難民は多くの場合、違法移民斡旋業者に頼る。
群衆管理
ギリシャの国境沿いフェンスは、初期に建設されたものの1つで、アブラモプロス氏は依然としてこれを擁護している。同氏によれば、ギリシャがこのフェンスを建設したのは、難民申請を受け付ける公式の国境検問所に人々を誘導するためだったという。