最新記事

欧州難民問題

移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか

2016年4月11日(月)10時16分

 だが、ロイターが公式のデータを分析したところ、ドイツの「ベルリンの壁」崩壊以来、欧州各国は少なくとも5億ユーロ(約630億円)のコストをかけて、総延長1200キロに及ぶ移民防止フェンスを建設、あるいは着工している。米メキシコ国境のほぼ40%に相当する長さだ。

 こうした障壁の多くはEU加盟国をそれ以外の国と隔てるものだが、パスポート不要地域を含めた、加盟国同士を隔てるフェンスもある。ほとんどが2015年に建設開始したものだ。

 「EUに流入しようとする移民・難民が多いところでは、必ずフェンスを築くという流れになっている」と語るのは、人権団体アムネスティ・インターナショナルで欧州移民問題を研究するアイレム・アーフ氏だ。

 各国政府にとって、フェンスの構築は手軽な解決策に思える。完全に合法的だし、入国者を管理する権利を有するからだ。欧州に新たなフェンスが築かれるたびに、隔てられた経路で流入する不法移民の数は急減している。

 少なくとも、フェンスの恩恵を得ている企業が1社はある。英仏海峡横断トンネルを運営するユーロトンネル社では、昨年10月にフランス側のターミナル周辺で大規模な保安設備更新が行われて以来、移民を原因とするトラブルはなくなったという。

 ユーロトンネルの広報担当者ジョン・キーフ氏は、「2015年10月半ば以降、サービスの停止はない。フェンス建設と警備員の追加という組み合わせは、非常に効果的だったと言える」と話している。

 だが少なくとも短期的には、フェンスは欧州に入ろうとする人々の数を減らしてはいない。代わりに、より時間のかかる危険なルートを選ぶようになっただけだ。

 人権団体によれば、欧州法は公正かつ効率的な難民申請手続を利用する権利を万人に認めているにもかかわらず、一部のフェンスによって、難民申請希望者の避難先を探すチャンスを奪っているという。

 別のルートを探さざるを得なくなると、移民・難民は多くの場合、違法移民斡旋業者に頼る。

群衆管理

 ギリシャの国境沿いフェンスは、初期に建設されたものの1つで、アブラモプロス氏は依然としてこれを擁護している。同氏によれば、ギリシャがこのフェンスを建設したのは、難民申請を受け付ける公式の国境検問所に人々を誘導するためだったという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中