最新記事

欧州難民問題

移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか

2016年4月11日(月)10時16分

 ギリシャの対トルコ国境の大半は、急流であるエブロス川が境界となっている。だが、トルコ側でこの川を渡った後、陸上で国境を越えられる地帯が12キロにわたって続いており、難民たちはここを使って忍び込んでくる。

 「エブロス川は非常に危険な川だ。何百人もの人々がそこで命を落としている」と、アブラモプロス氏は2月、ロイターに語った。

 国連難民機関によれば、2010年にエブロス川では少なくとも19人が溺死している。これ以上詳しいデータは、ギリシャ当局からも欧州の国境管理機関であるフロンテックス(欧州対外国境管理協力機関)からも入手できなかった。

 人権団体によれば、現実には、ギリシャが築いた障壁は(そして、スペインがモロッコに築いたものを含めて他の障壁も)、実質的にすべての人々を拒否しており、脆弱な立場の人々が正当な保護を求める機会を奪っているという。

 その原因の1つには、新たに設けられた障壁の一部では、空港と同じように旅券管理が行われているからである。国を離れ、難民申請を望むEU加盟国の検問所に到達するには、渡航文書が必要になる。だが、多くの難民はそのような書類を持っておらず、機械的に拒否されてしまう。

 障壁が設置されると、そこには警備員やカメラなど監視装置が配備され、人々が難民申請を行うことはますます難しくなる。人権団体は、国境警備員が移民・難民に対して、殴打や暴言、強奪といった行為を行ったあげく追い返した例を数多く報告している。

 アムネスティ・インターナショナルによれば、「押し戻し(プッシュバック)」と呼ばれるこうした手法が、欧州の対外国境管理の本質的な特徴になっているという。

 解決策として、一部の移民・難民は偽造書類にカネを払う。車両に潜伏して国境を越える者や、違法移民斡旋業者に頼る者もいる。

 ギリシャが設置したフェンスは、欧州全体に連鎖反応を引き起こしており、障壁を設ける国の数は増加の一途をたどる。トルコ国内を通過した移民のなかには、ブルガリア国境を越えて欧州に入る者や、空気注入式のゴムボートでギリシャに密航する者が増えている。国際移民機関の記録によれば、地中海東部では昨年初以来、1100名以上の移民が死亡している。

純粋な文化の維持

 EUは、フェンスの設置は無意味だとして、その資金の拠出を拒否している。欧州委員の座にあるアブラモプロス氏は、主にギリシャやイタリア経由の難民・移民16万人に、フェンスではなく、住居を提供することで連帯を示すよう加盟国に説得を試みている。だが3月15日の時点で、定住先を得た難民申請者は937人にすぎない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米10月貿易赤字39%減、約16年ぶり低水準 輸入

ビジネス

米新規失業保険申請件数は0.8万件増、25年人員削

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部2カ所を攻撃 少なくとも4人

ビジネス

FRBミラン理事「年内1.5%利下げ余地」、インフ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 8
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 9
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 10
    大阪・関西万博で起きた「1200万回」の行動変容...使…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中