移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか
ギリシャの対トルコ国境の大半は、急流であるエブロス川が境界となっている。だが、トルコ側でこの川を渡った後、陸上で国境を越えられる地帯が12キロにわたって続いており、難民たちはここを使って忍び込んでくる。
「エブロス川は非常に危険な川だ。何百人もの人々がそこで命を落としている」と、アブラモプロス氏は2月、ロイターに語った。
国連難民機関によれば、2010年にエブロス川では少なくとも19人が溺死している。これ以上詳しいデータは、ギリシャ当局からも欧州の国境管理機関であるフロンテックス(欧州対外国境管理協力機関)からも入手できなかった。
人権団体によれば、現実には、ギリシャが築いた障壁は(そして、スペインがモロッコに築いたものを含めて他の障壁も)、実質的にすべての人々を拒否しており、脆弱な立場の人々が正当な保護を求める機会を奪っているという。
その原因の1つには、新たに設けられた障壁の一部では、空港と同じように旅券管理が行われているからである。国を離れ、難民申請を望むEU加盟国の検問所に到達するには、渡航文書が必要になる。だが、多くの難民はそのような書類を持っておらず、機械的に拒否されてしまう。
障壁が設置されると、そこには警備員やカメラなど監視装置が配備され、人々が難民申請を行うことはますます難しくなる。人権団体は、国境警備員が移民・難民に対して、殴打や暴言、強奪といった行為を行ったあげく追い返した例を数多く報告している。
アムネスティ・インターナショナルによれば、「押し戻し(プッシュバック)」と呼ばれるこうした手法が、欧州の対外国境管理の本質的な特徴になっているという。
解決策として、一部の移民・難民は偽造書類にカネを払う。車両に潜伏して国境を越える者や、違法移民斡旋業者に頼る者もいる。
ギリシャが設置したフェンスは、欧州全体に連鎖反応を引き起こしており、障壁を設ける国の数は増加の一途をたどる。トルコ国内を通過した移民のなかには、ブルガリア国境を越えて欧州に入る者や、空気注入式のゴムボートでギリシャに密航する者が増えている。国際移民機関の記録によれば、地中海東部では昨年初以来、1100名以上の移民が死亡している。
純粋な文化の維持
EUは、フェンスの設置は無意味だとして、その資金の拠出を拒否している。欧州委員の座にあるアブラモプロス氏は、主にギリシャやイタリア経由の難民・移民16万人に、フェンスではなく、住居を提供することで連帯を示すよう加盟国に説得を試みている。だが3月15日の時点で、定住先を得た難民申請者は937人にすぎない。