移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか
ハンガリーのオルバン首相にとって、難民の受入割当という発想は「ほとんど狂気に近い」。オルバン首相は、多文化の移民によって「キリスト教的価値観」が希釈されることに反対し、2015年末に、クロアチアとセルビアに接する国境にフェンスを築き始めた。
旧ユーゴスラビアにおける1990年代の「民族浄化」以来、バルカン諸国は民族対立・宗派対立のリスクに特に神経質になっている。他国もハンガリーに倣ってフェンスの建設を開始した。ただし、文化の純粋さの維持よりも、人の流れをコントロールするためと理由付けしている。
オーストリアは昨年11月、スロベニアとの国境に障壁を設けるにあたり、群衆管理のために必要と主張した。その後、入国を許可する人数、自国経由でのドイツへの流入を認める人数に上限を設けた。3月の時点で、こうした措置はどれも望ましい結果を出しているようにみえる。オーストリア経由でドイツに流入する移民の数は7分の1以下に減少したのだ。
とはいえ、フェンスが移民のルートを閉ざすのではなく、単にルートを修正しているにすぎないという新たな兆候も出てきた。アフリカを横切ってイタリアへという危険なルートを選択する移民の数は増大している。オーストリアは、イタリアとの国境警備にあたる兵士を増員すると述べている。
先月アブラモプロス氏が視察したフェンスは、こうした障壁に伴うリスクを裏付けている。さらに北方の国々との協定の一環としてマケドニアが建設したフェンスによって、約5万人の人々がギリシャ国内に封じ込められてしまったのだ。
子どもたちが3分の1を占める移民・難民1万人以上が、フェンス近くの粗末なテントで暮らしている。多くの家族は国境周辺を離れるのを拒否し、国境が開放されるのを待っている。だが、その間にも呼吸器系の感染症が広がり、苛立ちは募っている。
アブラモプロス氏は言う。「われわれのあらゆる価値観が揺らいでいる。ここに来れば、それが分かる」
(Gabriela Baczynska記者、Sara Ledwith記者、翻訳:エァクレーレン)