最新記事

欧州難民問題

移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか

2016年4月11日(月)10時16分

 ハンガリーのオルバン首相にとって、難民の受入割当という発想は「ほとんど狂気に近い」。オルバン首相は、多文化の移民によって「キリスト教的価値観」が希釈されることに反対し、2015年末に、クロアチアとセルビアに接する国境にフェンスを築き始めた。

 旧ユーゴスラビアにおける1990年代の「民族浄化」以来、バルカン諸国は民族対立・宗派対立のリスクに特に神経質になっている。他国もハンガリーに倣ってフェンスの建設を開始した。ただし、文化の純粋さの維持よりも、人の流れをコントロールするためと理由付けしている。

 オーストリアは昨年11月、スロベニアとの国境に障壁を設けるにあたり、群衆管理のために必要と主張した。その後、入国を許可する人数、自国経由でのドイツへの流入を認める人数に上限を設けた。3月の時点で、こうした措置はどれも望ましい結果を出しているようにみえる。オーストリア経由でドイツに流入する移民の数は7分の1以下に減少したのだ。

 とはいえ、フェンスが移民のルートを閉ざすのではなく、単にルートを修正しているにすぎないという新たな兆候も出てきた。アフリカを横切ってイタリアへという危険なルートを選択する移民の数は増大している。オーストリアは、イタリアとの国境警備にあたる兵士を増員すると述べている。

 先月アブラモプロス氏が視察したフェンスは、こうした障壁に伴うリスクを裏付けている。さらに北方の国々との協定の一環としてマケドニアが建設したフェンスによって、約5万人の人々がギリシャ国内に封じ込められてしまったのだ。

 子どもたちが3分の1を占める移民・難民1万人以上が、フェンス近くの粗末なテントで暮らしている。多くの家族は国境周辺を離れるのを拒否し、国境が開放されるのを待っている。だが、その間にも呼吸器系の感染症が広がり、苛立ちは募っている。

 アブラモプロス氏は言う。「われわれのあらゆる価値観が揺らいでいる。ここに来れば、それが分かる」

(Gabriela Baczynska記者、Sara Ledwith記者、翻訳:エァクレーレン)

Gabriela Baczynska and Sara Ledwith [ブリュッセル 4日 ロイター]

120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

野村HD、「調査の事実ない」 インド債券部門巡る報

ワールド

韓国、北朝鮮に軍事境界線に関する協議を提案 衝突リ

ワールド

バングラデシュのハシナ前首相に死刑判決、昨年のデモ

ワールド

中国、G20での高市首相との会談拒否 台湾発言を問
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中