最新記事

インタビュー

【再録】現代史上、最も名高い2人の新旧米国務長官

2016年3月30日(水)15時50分
ジョン・ミーチャム(米国版編集長)

キッシンジャー まったく同感だ。大統領と国務長官の関係こそが鍵だ。国務省は外交を指揮するのは自分たちの権利だと主張しがちだが、特権を主張するのは省庁間の戦いに負けた証拠だと思う。

 国務長官時代、私も大統領もワシントンにいるときは毎日会って話をした。方向性を共有することが不可欠だと思ったからだ。

 私の場合は幸運だった。国務長官として仕えた2人の大統領(リチャード・ニクソンとジェラルド・フォード)のどちらとも非常に親しい関係だった。歴代の国務長官を振り返れば、これは珍しいことだ。大統領と近しい関係にない国務長官は長続きしない。

クリントン 私がバランスを取るのに苦慮している問題は、今日の世界では現地を訪問することが必要とされるということ。直ちに連絡を取り合える今の時代、わざわざ飛行機に乗って現地で会談しなくてもいいじゃないかと思うかもしれない。でも現実には、むしろ直接対談することへの欲求が高まっているように感じる。

キッシンジャー アメリカが本当のところ何をどう考えているか、説明してもらいたいからだ。ケーブル経由では、それは分からない。

クリントン 確かに。それに、メディアを悪く言う気はないけれど、報道のせいで根拠のない不安や懸念が広がることが多い。おかげでアメリカ政府の真意は何なのかと、各国政府が気をもむ。だから私たちは現地へ行って話をし、話を聞かなければならない。

 最近の私のように飛行機に乗りっ放しの場合、すべての関係国や関係者に対処するのはとても大変だ。だが大統領と信頼し合える関係にあれば、外国訪問の前にじっくり方針を話し合って考えを共有できるから、安心して外国へ行き、結果を報告できる。

 言うまでもなく、各国はそれぞれの国益に基づいて決断を下すものだ。とはいえ相互関係が発展すれば、別の視点から国益を判断するよう促し、より大きな共通点を探ることが可能になる。会談相手がこちらを個人的に理解し、親しみを感じていれば、見解の一致点も見つけやすくなる。

 だからこそ私はかつてヘンリーがしたように、膨大な時間を費やしてそうした関係を築こうとしている。指導者や国家の間に十分な信頼関係があれば、誤解を防げる。自国にとってそれほど重要でない問題で、相手に歩み寄ることも容易になる。

キッシンジャー 非常に重要なのは、ほかの国に何かを求める前にまず関係を築くことだ。そうすれば交渉に入ったときや危機が持ち上がったときに、ある程度の敬意を抱いて接することができる。

 国務長官が他国を訪問するときに厄介なことの1つは、報道陣が付いて来て、すぐに結果を求めること。実際は、慌てて結果を求めずに、次のために相手の理解を得ることこそ最良の結果という場合もあるのだが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中