トランプ外交のアナクロなアジア観
では、現在の考えは? ロギンが複数の陣営顧問の話として語っているところによると、トランプは大統領になった場合、日米安保条約の再交渉に動くつもりでいるらしい。
トランプの日本像は80年代後半、あるいは90年代初期から一度もアップデートされていないのではないか。14年にはTPP(環太平洋経済連携協定)に絡んで、アメリカは「日本が米国内で大量の車を無関税で売ること」を許しているのに「日本と貿易協定を結べない」と発言した。トランプの頭の中では、日本の圧倒的な経済的成功が今も続いているのだろう。
韓国との同盟関係についても同様の考えのようだ。14年にツイッター上で「韓国は多額の対米貿易黒字を記録している。あの国を守るためにカネを出しているのは私たちだ」と発言。その前年には、「いつまで韓国をタダで北朝鮮から守ってやるんだ?」とYouTubeで公開した動画で訴えた。
ちなみに、韓国はアメリカとの同盟体制を維持するためそれなりの金額を負担している。だがもちろん、トランプにとってそんな事実はどうでもいい話なのだろう。
中国と日本、両方は嫌えない
既存の同盟への懐疑的姿勢が本物であり、アメリカの国益についてトランプが確かな理念を抱いているなら、「トランプのアメリカ」がとる態度は目に見えている。東アジア地域で戦後以来のリベラルな秩序を維持するというテーマは、ほとんど見向きもされなくなるはずだ。
【参考記事】ドナルド・トランプ「株安は中国のせいだ」
米大統領選の候補者は、それぞれ外交分野で各種の持論を唱えている。だが真に問われるべきは東アジア諸国との同盟の在り方、とりわけリバランス政策の促進の是非だ。韓国軍への作戦統制権移管や日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直しが議論されるなか、無視できない問題になっている。
だが日韓には、地政学上の危機に対する軍事的備えがあるのか? 東アジアでの同盟関係を拡大し、パートナー国から成るネットワークをつくるため、アメリカはどうすべきか? オバマ政権が取り組んできたこれらの課題は、次の政権の課題でもある。
トランプがいずれ、東アジアの同盟国の価値に気付く可能性はある。彼が盛んに批判する中国を牽制するには、同盟国の協力が必要なのだから。
From thediplomat.com
[2016年3月22日号掲載]