中国ドラマ規制リスト:学園ドラマも刑事ドラマも禁止!
建て前としての抗日戦争ドラマ
「通則」の一部を紹介してきたが、これでもごく一部にすぎない。これほどがんじがらめの規制があると、逆にどのようなドラマならば作れるのかわからなくなるほどだ。実際、中国のドラマ制作者たちは、規制とのいたちごっこに苦しみながら新ジャンルを開拓してきた。
この経緯は2013年3月7日付「南方週末」紙の記事「"抗日"というビジネス "横店抗日根拠地"はいかにして開拓されたか?」に詳しい。2002年頃には裁判ドラマがヒットしたが規制され、2005年にはタイムスリップ時代劇がヒットしては規制され、2006年にはスパイドラマがヒット、そして規制......という流れをたどってきた。上述の山盛りの禁止事項は、いたちごっこによって積み重ねられてきたものとも言えるだろう。
そして2000年代後半から一世を風靡したのが"傍流"抗日戦争ドラマだ。中国共産党お墨付きの正しいプロパガンダ作品は中国語で「主旋律」と呼ばれている。そこから外れた娯楽性の高い抗日戦争ドラマが人気となった。中国共産党が大活躍する抗日戦争ドラマならば、「愛国精神を高揚させるための作品であり、下世話な代物ではございません」という建て前をつけられるという発想だ。
かくしてドラマ『抗日奇侠』では、素手で日本兵を引き裂くカンフーアクションや美女をSM風に縛り上げる拷問シーンが登場。台湾アイドルが主演を勤めた『向着砲火前進』は、ミッション・インポッシブル的なアクションに仕上がった。スパイとして日本軍高官に接触するという筋立てでセレブの社交界を描いた『雅典娜女神』という作品もある。
南方週末の記事タイトルで触れられている横店映画城は、中国を代表する撮影スタジオだが、抗日戦争ドラマブームの時には同時に50作ものドラマが撮影されていたという。死亡した日本兵エキストラの数は累計10億人という笑えないジョークもあるほどだ。
楽しい作品が大量生産された"傍流"抗日戦争ドラマだが、これも2013年頃には「正しい歴史を描いていない抗日雷劇(トンデモ抗日戦争ドラマ)だ」との批判が高まり、規制されるようになった。横店映画城も清朝の離宮「円明園」を復元したスタジオを作り、宮廷劇の撮影をメインとするようになっている。
なぜ中国共産党はここまでドラマの内容に口をはさむのだろうか。端的に言ってしまえば、中国の政府は家父長的存在であり、親として子どもである国民のありとあらゆる面に介入しようとするからである。中国も立派な世界の大国に成長した以上、そろそろ子離れの時期ではないかと思うのだが。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。