最新記事

中国政治

全人代政府活動報告は誰が書くのか?――習近平は事前にチェックしている

2016年3月14日(月)17時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

報告書内容に最終決定権を持っているのは習近平総書記

 以上のプロセスを経て、ようやく起草案ができ上がるのだが、完成までにはなお多くのプロセスがある。

 今年の場合、上記4回の大きな会議は、習近平と李克強によって主催されている。

 一つ目は、1月6日に李克強国務院総理が開催した第118回国務院常務委員会で、二つ目は1月14日に「習近平総書記」が主宰した中共中央政治局常務委員会会議で、この会議が最高決定権を持つ。

 つまり、李克強は国務院総理として国務院(中国政府)側の立法機関である全人代における政府活動報告に対して直接の責任を負わなければならないが、その内容の是非に関して、より高位の指摘を行なうのは、習近平総書記なのである。

 1月14日に習近平が主催したのは、フルネームで書けば「中国共産党中央委員会政治局常務委員会」だ。

 これこそは、中国における最高意思決定機関で、「中国共産党中央委員会(中共中央)」であることに注目しなければならない。

 だから、1月14日に会議を主宰した時の習近平の肩書は「習近平総書記」すなわち「中国共産党中央委員会・習近平総書記」であって、「習近平国家主席」ではない。

 このことは非常に重要だ。

 この時点で、習近平が中国共産党中央委員会の総書記として、「全人代における政治活動報告書に対して最終決定」をするのである。

 ここで習近平総書記が行った最終修正に関しては、絶対に覆してはならない。

 なぜなら中共中央政治局常務委員会は、中国の最高意思決定機関だからだ。

 このような中国政治の基本中の基本も知らずに、「習近平に対する賞賛の言葉が政治活動報告書の中に少なかったので、習近平が激怒した」などという、あり得ないゴシップを書いて喜んでいるのは、如何なものか。これではまるで、全人代で初めて習近平が政治活動報告の内容を知ったようで、このような誤読は、日本国民の中国全体へ誤読を招き、日本国民にとって有利な状況をもたらさない。

習近平の「核心化」は軍事大改革のため

 この一連の誤読の中で、習近平への賞賛の言葉の象徴として、「核心」という言葉を使う回数が少なかったからとしているが、「核心」に関しても誤読しているのは、更に好ましくない。

 2月10日付けの本コラム<習総書記「核心化」は軍事大改革のため――日本の報道に見るまちがい>で書いたように、習近平が各省幹部に「核心化」を言わせ始めたのは軍事大改革のせいである。 それまでの軍区の指令員だった者などが、軍区撤廃による不満を持つ。最も危険なのは、軍事大改革前まで絶大な力を持っていた総参謀部など4大総部の撤廃に対する不満だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中