最新記事

中国政治

全人代政府活動報告は誰が書くのか?――習近平は事前にチェックしている

2016年3月14日(月)17時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

全人代の席に着く習近平国家主席(左)と李克強国務院総理 Damir Sagolj-REUTERS

 日本の一部中国研究者は、今年の全人代政府活動報告に習近平を讃える言葉が少なかったため習近平が李克強に不満を抱いたとしているが、あまりに現実を知らな過ぎる誤読だ。起草課程に関する根本的知識を指摘したい。

日本の一部チャイナ・ウォッチャーの誤読

 日本には、今年の全人代における李克強国務院総理による政府活動報告の中で、習近平国家主席に対する賞賛が足りなかったために習近平が激怒したなどと書いている中国研究者がいる。その理由として習近平を「核心」と呼ぶ回数が少なかったからと解説している。

 日本の中国観は、こういうゴシップ的報道を好む傾向にある。これをただ単なる「娯楽」として楽しんでいるというのなら、それは個人の趣味の問題で、自由と言えば自由だ。

 しかし、それらはやがて、中国を分析して日本の経済界や外交分野などにおける政策に、それとなく心理的に影響をもたらし、日本に不利な形でも戻ってくるので、誤読による中国分析は日本国民にとっていい結果をもたらさない。

 客観的事実を冷静にとらえて上で、ビシッと批判する方が中国を正確に批判あるいは分析することができ、それはやがて日本国民にプラスの方向で戻ってくるので、ここでは政府活動報告が、どういう過程で起草され完成されていくのかに関して、基本をご紹介したい。

政府活動報告作成に関する法規

 全人代における政治活動報告作成に関しては、法規的に厳格に制限を受けた規定が中国にはあり、必ず「国務院研究室」が起草から完成までを担当しなければならない。ただし、国務院研究室のスタッフだけではなく、国務院研究室を中心として中央行政省庁の国家発展改革委員会、国家財政部あるいは中央銀行などの代表からなる「政府活動報告起草組」が、報告書起草に当たる。

 起草組の委員は毎年30名から40名により構成される。

 中央経済工作会議が終わった後に起草に取り掛かる。中央経済工作会議は、中共中央政治局常務委員(チャイナ・セブン)以外に、中共中央政治局委員、中央書記処書記、全人代常務委員会委員などから成る大きな会議だ。

 会議後、3、4カ月をかけて起草案を作成する。

 起草組は毎年4回以上の大きな会議を開き、何回にもわたる小討論会を開いて、最終的に起草案を決定する。

 でき上がってきた起草案の修正に関しては、国務院総理(現在は李克強)のみならず、必ず国家主席および中共中央総書記(現在は両方とも習近平)が目を通して最終決定をしなければならない。それ以外にも最近ではネットを通して「人民の意見」を求めるという形も採っている。

 以上が全人代における基本的な流れである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中