日本をデフレから救うのは資本主義のモデルチェンジ
過剰生産で物価が下押しされる先進国経済で目指すべきはインフレ率より成長率だ
変化の時 金融頼みはもう限界(国会で答弁する黒田東彦日銀総裁) REUTERS-Toru Hanai
年頭からの世界経済大荒れは、まだ鎮まらない。そこらじゅうにクレバスが口を開けている。「物価が上がるという期待感をかき立てて企業の投資を増やさせ、経済を持ち上げる」というアベノミクスは、物価を上げることさえできず、デフレの大波をかぶって漂流している。
産業革命でモノが大量に造られるようになって以来、すべての先進国で過剰生産がデフレを起こすことが多くなった。これからはロボットの本格導入などで生産性がいよいよ高くなると、物価はますます下押しされる。インフレ率2%を至上の目標に置いたアベノミクスに、向かい風は強くなるばかり。本当の目標はインフレ率より成長率の回復にある、という原点を見据え、まず需要や消費をかき立てるべきだろう。
日本は悲観することはない。資本はある。富の基礎であるモノ作りの力もある。問題はカネが回っていない、つまり賃金が増えないため生産やサービスへの需要が増えないことだ。これまでの円安で企業は空前の内部留保を抱える。それでも円高時代の悪夢を忘れず、賃上げという長期の負担を負いたがらない。
需要が不足していても市場にカネがあるなら、政府が税金で吸い上げて何か役に立つプロジェクトに使って需要をつくり出すのが、1つのやり方。だが今の日本で増税は無理というなら、国債を発行して余剰のカネを吸い上げ、それで需要を創出すればいい。税金と違って国債は、カネの所有権は市場のほうに残り、しかも利子までもらえる結構な代物だ。
国債発行が無限に増えて、利払いで予算が破綻することはない。1%強程度の成長を確保するのに必要な政府支出を確保できれば十分だからだ。それに今のように日銀が国債の多くを保有しているなら、政府が日銀に利子を払っても、それはまた国庫に戻ってくる。
計画経済なき「社会主義」
需要創出と言ってもやみくもにカネを配るのでなく、できるだけ多くの人に生活水準向上効果と収入が行き渡る波及効果があるほうがいい。生活水準向上に役立つのは、住環境の一層の改善(高度成長期の乱開発の跡を区画整理するなど)。波及効果が高いのは、家事・介護・対話ロボットなど新たな高収益の技術、あるいは個人の遺伝子解析など高収益のサービスへの支出補助だろう。
【参考記事】「エンゲル係数急上昇!」が示す日本経済の意外な弱点
全国にこれまで造ったインフラは維持・修理だけで年4兆円を要するといわれる。また介護のように収益性は低くても不可欠な部門には資金を流して職員の待遇を改善し、それによってカネを回し需要を創出するべきだ。
資本主義はモデルチェンジの時代にある。自動運転の無人タクシーをいつでも呼べることにすれば、自家用車の数は減るだろう。「所有よりシェアやレンタル」で済ます部分が増えてくる。今、世界からは紙幣が消えてデジタルでの支払いですべてが行われようとしている。そうなると当局はネット空間の取引を管理・誘導することで金融政策を実施するようになるだろう。