「トランプ話法」のレトリックに隠された功罪
トランプ氏は、フォックス・ニュースの番組司会者メギン・ケリー氏や、一時はライバルだったカーリー・フィオリーナ氏を攻撃するときも、この手法を使っていた。ニューヨーク市におけるモスク建設に反対するときも使った。移民問題から貿易紛争に至るまで、さまざまなテーマについて語るときに、この手法を日常的に駆使しているのだ。
ケリー氏を攻撃した例では、トランプ氏はテレビ放映された討論の際に両者のあいだで交わされた激しいやり取りについて語りつつ、彼女は「彼女の目から血が出ていた、他のどこかからも血が出ていた」と述べた。
この発言は多くの人々の憤激を招いた。トランプ氏は、ケリー氏が生理中でホルモンの影響を受けて合理性を欠いていたと言おうとした、というのが彼らの結論である。トランプ氏はそうした趣旨を否定し、支持者は、トランプ氏はそのような言葉を口にしていないと弁護した。
聴く側に解釈を委ねるトランプ氏の習癖は今に始まったことではない。大統領選出馬よりだいぶ前に行われたインタビューの記録を見ても明らかである。意識的にやっているのかどうかは分からない。
広報担当者のホープ・ヒックス氏によれば、これは競争的な精神の表われなのだという。「トランプ氏の演説は一局のチェスのようだと人は言います。偉大な才能が織りなす複雑な織物のようだと」と彼女は言う。
レトリックの逆効果
米ベイラー大学で修辞学を研究するマーティン・メドハースト教授によれば、エンテュメーマは聴く側に強い影響を及ぼしうるという。「心理的に相手を巻き込むことができ、相手が自分自身を説得するようにすることで、説得しやすくなる」と同教授は指摘する。
だが、こうしたレトリックにはリスクも伴う。特に、不完全な形で示した考えがあまりにも曖昧なせいで、聴く側が、肯定的もしくは否定的いずれかの言明で補ってしまう場合は危ない。
たとえば1月29日の演説で、トランプ氏は、中国が米国を搾取しているという見解を表明した。
「中国はわれわれの雇用を奪い、基地を奪い、金を奪ってきた。だが、私は中国が大好きだ。私は彼らとうまく付き合っている。私はああいう連中と、中国とビジネスをやっているし、彼らも私にも同意している。彼らは──できない(They can't --)」と語った。