最新記事

アメリカ社会

警官に射殺された黒人青年、直前に3度警察に助けを求めていた

野球バットを持っていただけの学生を撃ち殺す必要があったのか、人種間の緊張が高まるシカゴでまた痛恨の警察不祥事

2016年1月27日(水)16時02分
ローレン・ウォーカー

やりきれない思い 射殺されたクイントニオの写真を手に持つ友人(12月29日) Frank Polich-REUTERS

 昨年末、シカゴで19歳の少年が警察官に射殺され、またしても人種問題の絡んだ射殺事件かと注目を集めていた。今週公表された新しい記録から、その少年、クイントニオ・ルグリアが3回、911(日本の110番)に電話をかけ、オペレーターに電話を切られていたことがわかった。

 12月26日の早朝、シカゴのウエストサイドにある父親のアパートの外階段で、クイントニオ・ルグリアは警察官に6発撃たれて死亡した。この事件では、隣人で5人の子供の母親であるベティ・ジョーンズ(55歳)も警察官に射殺されている。

 いったい何が起こったのか。

 これまでに判明していた通報は2件だけだった。1件はクイントニオ自身がかけたもの。もう1件は彼の父、アントニオ・ルグリアがかけたものだ。しかし、警察の不祥事を調査する独立警察審査機関は、市の危機管理伝達局(OEMC)がさらに2件の通話記録を提出してきたとしている。2件とも、当初公表された1件の通報よりも前にクイントニオがかけていたものだ。

 最初の通報は午前4:18。「(緊急事態なので)警官に来て欲しい」と、クイントニオは助けを求めた。

「それだけではわかりません。緊急の要件は何ですか?」とオペレーター。

 クイントニオは何度も緊急と訴え、ついには「身の危険が迫ってる」と言っている。オペレーターは、それ以上の詳細を話さない彼に対し、「質問に答えられないなら切りますよ」と言って、電話を切った。

 OEMCのメリッサ・ストラットン報道官は、オペレーターが適切な措置を取らなかったとして、既に懲戒処分に着手しているとシカゴ・トリビューン紙に語った。命の危険があると通報者が話した時点で、警察官を現場に派遣すべきだったという。

 クイントニオは4:20に2度目の通報をし、アパートに警察官を送ってくれるよう繰り返し頼んだ。3度目は4:21。別のオペレーターが電話を取り、状況をクイントニオから聞き出して、パトカーを手配した。いずれの電話でも、クイントニオの声には苛立ちが感じ取れる。

別の黒人射殺事件で抗議運動が起こったばかりだった

 警察官が現場に向かっているその頃、父親のアントニオが911に通報。パニックに陥った様子で、息子が金属バットを持って「寝室のドアを壊して押し入ってきそうだ」とオペレーターに話している。

 その数分後、警察官のロバート・リアルモがクイントニオを6回撃った。クイントニオがバットを振り回して襲いかかってきたという。隣人のジョーンズは、胸部を1発撃たれて死亡。撃ったのは同じ警察官で、彼女の死は「事故だった」と警察は発表している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中