最新記事

中朝関係

北朝鮮テレビから削除された劉雲山――習主席の親書を切り裂いたに等しい

2016年1月12日(火)16時56分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 また1月11日のネットユーザーのコメントとして、たとえば、

・河北省のユーザー:北朝鮮という、こういうゴミ国家は(中国は)サッサと捨てるべきだ。

・黒竜江省のネットユーザー:正常な道を歩もうよ。中国政府が北朝鮮の(経済)支援などをするから、北は世界中の制裁があったとしても、何も怖くないのだ。だから中国は、どんなことがあっても北朝鮮に乳を与え食糧を送ることを徹底的にやめなければならない。そうやってこそ初めて、あの「金デブ」(金正恩のこと)に妄想的な野心を抱くことをやめさせることができる。

・広西チワン族自治区のユーザー:中朝関係がここまで来てしまった主な責任は中国にある。

・甘粛省ユーザー:その通りだ!中国がアメリカの挑発を受けて、自ら創りだしたものさ。中朝関係が良い方が、中国には有利なのさ。

などがある。

民意を気にしている中国政府

 中国のネットユーザーは、よく現実を分かっている。

 その通りだ。

「唇なくば、歯寒し」ということのために、中国(歯)は唇である北朝鮮を温存させてきた。

 しかし、そろそろ限界だろう。中国が今後、もう一度、北朝鮮との友好関係を再構築しようという試みはしないだろうと思われる。

 習近平国家主席が北朝鮮訪問より先に韓国を訪問したのは、中国建国以来、初めてのことである。それは金正恩に対する「お仕置き」であり、少しは反省させようと試みたためであると、中国政府関係者は言っていた。

 少なくとも昨年9月3日に北京で挙行された軍事パレードに、金正恩の代わりに崔竜海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党中央委員会書記が出席したため、劉雲山を北朝鮮に派遣した。その劉雲山を「消した」となれば、中国政府も民意に一定程度、配慮するしかなくなる。

 中国は、普通選挙ではない一党支配体制を布いているだけに、反政府は政権転覆につながる。自民党がダメなら民主党をとか、共和党がダメなら民主党をといった党の選択はできない。その分だけ中国は実は民意が怖いのである。

 民意はもう「いい加減にしろ」というところまで来ている。「なぜおれたちの税金で北朝鮮という国全体を養ってあげなければならないのだ?」という思いは、中国人民の多くに行きわたっている。

 少なくとも、国連安保理等における制裁が具体化すれば、中国は拒否権を行使することなく制裁に賛同し、かつ実行するだろうと考えられる。

 中国の、日米や韓国との関係に関しては、また別途論じることにしたい。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、トランプ氏の「今週合意」発言にコメントせず

ワールド

対米貿易協議は難航も、韓国大統領代行が指摘 24日

ビジネス

中国、国有企業に国際取引の元建て決済促す 元の国際

ワールド

ローマ教皇フランシスコ死去、88歳 初の中南米出身
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中