シリア難民を拒否する米法案の巧妙な中身
オバマの受け入れ拡大計画にノーを突き付ける共和党に民主党議員も同調?
玉虫色 「建て前では受け入れるが、実務上は受け入れない」がアメリカの声 Samantha Sais-REUTERS
今年10月からの1年間で少なくとも1万人。これまでの約6倍に当たるシリア難民を受け入れようという、オバマ米政権の計画が危うくなってきた。パリの同時多発テロを受け、共和党だけでなく民主党の中にも、「難民拒否」に同調したほうが政治的に得策と考える議員が出てきている。
米連邦議会下院では先週、シリア難民の受け入れ審査を厳しくする「外敵に対する国家安全保障(SAFE)法案」が可決された。法案には共和党議員242人に加え、民主党議員47人も賛成票を投じた。
過半数を優に超える支持を集めたのは、内容が実に巧妙だからだ。シリア難民受け入れの拡大禁止を明文化せず、テッド・クルーズ上院議員(共和党)が掲げる「キリスト教徒のみ受け入れ」という制約も設けない。
ただ、手続きがこれまでよりずっと面倒になる。シリア(あるいはイラク)難民一人一人について身元調査を厳格化し、FBI長官と国土安全保障長官、国家情報長官が「国家の安全を脅かす存在ではない」と証明することなどを求めているのだ。
結果的には、認定まで大幅に時間がかかることになり、共和党の望む受け入れ凍結が実現される。「単なる審査の強化」という共和党側の主張が、一部の民主党議員にとっては法案支持の建前(あるいは反対しにくい圧力)になった。
パリのテロ後、アメリカでは多くの州知事が自州への難民受け入れを当面拒否する意向を表明。ほとんどは共和党だが、民主党の知事もいる。民主党の次期上院院内総務と目されるチャールズ・シューマー上院議員も、難民受け入れの小休止が必要かもしれないと語った。
こうしたなか、次の議会議員選挙で接戦になりそうな民主党議員は、難民受け入れ拡大計画を支持することに慎重でいる。先週発表された世論調査によれば、国民の53%はシリア難民を「一切受け入れるべきではない」と考えており、オバマ政権の計画を支持しているのはわずか28%だ。
次回選挙での非難を恐れ
民主党支持者だけを見れば、46%は政権の立場を支持しているが、36%は「一切受け入れるべきではない」とし、9%は「キリスト教徒のみ受け入れるべき」と考えている。民主党議員としては次の選挙で、「あの候補は狂ったテロリストがアメリカに来るのを許す法案を支持した」という中傷広告を流されることは避けたいものだ。