問題だらけのミャンマー総選挙
最も議論の多い条文の1つが、憲法改正に全議員の75%の賛成が必要と定めた436条だ。「この選挙を『75%選挙』と呼びたい。上下両院それぞれの議席の25%を軍人議員が占めるよう定められているからだ」と、マティソンは言う。「軍事政権は自分たちを憲法の守護者だと言う。一切の変更を認めないという方針を明確にしている」
その証拠に8月、USDPは突然、党首で大統領の有力候補だったシュエ・マンを解任した。現行憲法を維持したい党内主流派と対立していた人物だ。
この憲法で問題になっているのは、外国籍の配偶者や子供がいると大統領になれないという条項だ。スー・チーの亡夫も2人の息子もイギリス人国籍で、この条項は彼女が大統領になれないようにする目的で設けられたとも批判される。
当のスー・チーは自信にあふれているようにみえる。ヤンゴン北郊で行われた決起集会では群衆に向かって、「はっきり言っておこう。誰が大統領になろうと、私はNLD政権のリーダーになる」と語った。
今回の総選挙が自由で公正なものになりそうにない要因はほかにもある。多くの市民が投票できないのだ。
ヤンゴン大学政治学大学院のミャット・トゥー院長によれば、官僚主義の弊害があるほか、有権者登録や投票を監視する選挙管理委員会も人手が不足している。「有権者名簿での名前の重複や無記載の話をよく耳にする。同じ名前が5回も出てくる場合もあると聞く」
ミャンマー国境のいくつかの地域ではまだ暴力がはびこり、独立を求める少数民族の武装勢力との戦いは67年目に突入した。2年にわたる和平交渉の努力も、合意したのは参加した15の民族組織のうち8つだけだった。投票を認められない集落は600近くに上るだろう。
台頭した「仏教過激派」
一方、西部ではイスラム系少数民族のロヒンギャ族への迫害が続き、政府が民政移管を真剣に考えているかどうかが疑問視されている。政府はロヒンギャ族をバングラデシュ人だとして、国民に与えられる権利の多くを認めていない。そのため約14万人が住んでいた場所を追われ、選挙権も与えられていない。
オバマはミャンマーの政治改革の「勇気あるプロセス」を称賛する一方で、「イスラム教徒を迫害すれば成功しないだろう」と警告している。
今年に入ってロヒンギャ族の難民危機が起きた際、スー・チーをはじめとする政治エリート層は沈黙を守った。現在、ロヒンギャ族は一層の迫害に直面している。「民族と宗教を保護する同盟」(地元では「マバタ」と呼ばれる)など仏教徒のナショナリスト集団が反イスラム感情をたき付けているのだ。