ノーベル賞、中国が(今回は)大喜びの理由
5年前の人権活動家の受賞は完全無視だったが、自然科学分野初の受賞となる今年は国中が大フィーバー
重要な節目 ノーベル賞受賞の祝福を受ける屠
科学技術によって国の再活性化を図る──。ここ10年ほど、中国の指導者たちは「イノベーション立国」を合言葉のように唱えてきた。口先だけではない。政府研究開発費は13年には日本の約2倍、アメリカの4分の3近い3365億ドルに達し、今後も増える勢いだ。
それなのに、中国からは自然科学分野のノーベル賞受賞者がいなかった(10年には民主活動家の劉暁波[リウ・シアオポー]が平和賞、12年には作家の莫言[モー・イエン]が文学賞を受賞)。独創的な考え方を重視しない教育システムや、硬直的な研究開発体制に問題があるからではないか──そんな指摘は少なくなかった。
確かに、1957年に楊振寧(ヤン・チェンニン)と李政道(リー・チョンタオ)がノーベル物理学賞を受賞しているが、2人は中国が共産主義体制に移行する前の中華民国に生まれ、20代でアメリカに移住し、以来ずっとアメリカで研究生活を送っている。
中国人が自然科学分野でノーベル賞を取るには、楊や李のように外国に行くしかないのか。中国人が子供を外国の大学に留学させるときも、何人のノーベル賞受賞者を輩出したかが学校選びの重要な決め手の1つになっているではないか......。
そんな疑心暗鬼にとらわれていた中国にとって、屠呦呦(トゥー・ヨウヨウ)(84)がノーベル医学生理学賞を受賞したというニュースは、この上ない朗報となった。これは「現代中国の自然科学研究における重要な節目」であり、「中国人科学者に新たな可能性を示す」とともに、中国の研究体制に対する「疑念を払拭する」ものだと、共産党機関紙傘下の環球時報は報じた。
楊や李と違って、屠は中国本土で教育を受け、研究者としてのキャリアも北京にある中国中医科学院で積んだ。受賞理由となったマラリアの治療法を研究し始めたのは、文化大革命の嵐が吹き荒れていた60年代だ。
屠のノーベル賞受賞のニュースに、李克強(リー・コーチアン)首相も大興奮しているようだ。いわく、受賞は「中国の国力と国際的影響力が引き続き高まっていること」を示したと、鼻高々だ。
中国科学院の白春礼(パイ・チュンリー)院長も、屠の偉業は「中国の科学界全体にとっての誇り」であり、「中国の科学者(の研究活動)を一層刺激するだろう」と語った。
なるかイノベーション立国
それでも屠のノーベル賞受賞は、中国の研究体制に疑問を投げ掛けたと、環球時報は指摘する。中国では伝統的に、研究者が重要な仕事をするには、大なり小なり政治家の後ろ盾が必要だと考えられている。だが、「屠は、(中国最高の研究機関で莫大な予算のある)中国科学院の会員でさえない。この事実を、よく考えるべきだ」。