中国の「反スパイ法」と中国指導部が恐れるもの
こうした状況は、人権派弁護士の大量拘束にも通じる。中国当局が、人権派弁護士を危険視するのは、彼ら彼女らが、個々の問題をつなげ、全国的な運動にする人たちだからだ。弁護士としては、社会問題を解決するための当然の活動であるが、全国的な運動になるのは、中国共産党にとってはたまらなく恐ろしいのである。
実は、「反スパイ法」には前身となる法律がある。1993年に公布された「国家安全法」だ。この法律は、「反スパイ法」の成立をもって廃止されたが、2015年7月1日、新たな「国家安全法」が公布された。この法律がカバーする範囲は、サイバー、宇宙等、非常に広い。結果として、スパイ行為取り締まり活動だけが、特別に外に出された形となった。
これは、中国指導部の「中国共産党の統治を転覆させる企図」に対する危機感の表れであると言える。中国指導部は、何としてでも、中国共産党による統治を守ろうとするだろう。どのような手段を用いても、である。
諜報活動もそれを取り締まる活動も、ほとんどが水面下で行われる。表沙汰にできる活動ばかりではない。「反スパイ法」も、「公開された活動と秘密工作の結合の堅持」をその最初の部分で指示している。「秘密工作」がある限り、スパイ取り締まり活動が公にされることはない。
[執筆者]
小原凡司
1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。東京財団研究員