最新記事

ビジネス戦略

インドネシア高速鉄道、中国の計算

日本には「理解しがたい」条件だったが、中国はそれを高速鉄道より大きな計算ではじき出した

2015年10月5日(月)17時08分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

どんでん返し 土壇場で?日本の新幹線を逆転した中国高速鉄道「和階号」

 中国は高速鉄道建設に関してインドネシア政府に財政負担や債務保証を要求しない条件を提案して日本を退けた。日本政府にとっては理解しがたい条件だが、中国には綿密に計算された長期戦略があった。何が起きていたのか?

ジョコ大統領に目をつけた習近平国家主席

 一般に誰が考えても、相手国の財政負担はゼロで債務保証も要求しませんという慈善事業のような形でプロジェクトを請け負うことは理解しがたいことだ。

 しかし、中国はちがう。

 インドネシア政府による支出はなく、債務保証もしなくていいという、考えられないような条件を提示したのだ。本当にそんなことが実行されるのなら、飛びつかない国はないだろう。
日本政府は「理解しがたい」と遺憾の意を表したが、中国流外交戦略は「計算」の仕方が違う。

 まず2014年10月20日、庶民派のジョコ・ウィドドが大統領に就任すると、習近平国家主席はいち早くジョコ大統領に目をつけた。

 ジョコ大統領は就任直後の同年11月4日に、「海洋国家構想」の一環として、「港湾整備や土地整備を優先するためにインフラ整備の優先順位を見直す」と発表。これぞまさに習近平政権が掲げているAIIB(アジアインフラ投資銀行)と一帯一路(陸と海のシルクロード)構想とピッタリ合致する。

 そこで2014年11月9日に北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会談に出席したジョコ大統領を習近平主席は手厚くもてなし、首脳会談を行なった。ジョコ大統領はすぐさまAIIBへの参加を表明した。インドネシアにとって中国は最大の貿易相手国だ。一帯一路構想に関してもジョコ大統領は協力の意を表した。

 11月10日、ジョコ大統領は日本の安倍首相とも会談して海洋協力を約束し、2015年3月22日に訪日して経済協力と安全保障面の協力について話し合っているが、それに対して習近平主席は、もっと「具体的な」手段に出ている。

インドネシア高速鉄道プロジェクト協力に習主席がサイン

 2015年3月末、ジョコ大統を北京に招聘して、中国の国家発展改革委員会とインドネシアの国有企業省に「中国・インドネシア

 ジャカルタ‐バンドン間高速鉄道合作(協力)備忘録」を交換させた。

 続いて2015年4月22日、習近平国家主席自身がインドネシアを訪問し、ジョコ大統領と会談した。この際、習主席は、インドネシアの高速鉄道プロジェクトに関して話しあい、署名までしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中