最新記事

EU

欧州難民危機で、スロバキアがイスラム難民の受け入れを拒否

ギリシャとイタリアに押し寄せた史上最多の難民をEU各国でどう分担するかで高まる緊張

2015年8月21日(金)18時00分
フェリシティ・ケーポン

招かれざる客 ウクライナ経由でスロバキアに入ろうとする移民も多い Gleb Garanich-REUTERS

 スロバキアが受け入れるのはキリスト教徒の難民だけで、イスラム教徒は受け入れない──スロバキア内務省広報官はウォールストリート・ジャーナル(WSJ)にこう語った。「スロバキアにはモスクが足りないので、イスラム教徒の難民は落ち着かないだろう」というのが、その理由だ。

 スロバキアは現在、トルコ、イタリア、ギリシャの難民キャンプで暮らす難民や移住希望者のうち200人を受け入れることになっている。これは欧州の「玄関口」として難民が集中しているイタリアとギリシャの負担を軽減するためにEU(欧州連合)が加盟各国に割り当てた数。最終的には、EU全体で4万人の受け入れを目指す。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、今年7月の1カ月間にシリア内戦から逃れてきた難民など5万242人がギリシャに押し寄せていると発表した。これは昨年1年間にギリシャに来た難民の総数4万3500人よりも多い。

 スロバキア内務省の広報官イバン・メティクはBBCの取材に対して、「その気になればイスラム教徒を800人受け入れることだってできるが、モスクもない土地には適応できないだろう」と語った。「難民が押し寄せるヨーロッパを助けたいのは山々だが、スロバキアは難民の通過点でしかない。ここでの生活は望まないだろう」

 さらにメティクはWSJに対し、「スロバキアにはモスクがない。だからキリスト教徒だけを受け入れたい」と、語った。

結局は自発的な取り組み頼り

 この一連の発言は、他のヨーロッパ諸国の怒りを買った。今年の難民流入数が最大80万人にも上るとみられるドイツの外交問題評議会のノルベルト・レットゲン議長は、スロバキアの態度は「ヨーロッパの機能不全」を加速させ、EUの対応をぶち壊しにしている、と非難した。

 スロバキア政府は「難民の到着時に宗教について尋ねる予定だ」と表明したが、UNHCRは、各国政府に対して、難民受け入れの際に「差別的でないアプローチ」を取るよう求めている。

 EUの行政府にあたる欧州委員会の広報官アニカ・ブライトハードはこう語った。「EU加盟国は、基本的人権を定めた欧州憲法と、難民を保護する共通ルールを尊重し、遵守する義務がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中