【WEB再録】泥まみれのFIFA帝国
若き日のブラッターは、スイスのある観光事務所で広報の仕事をしていた。「世界ガーターベルト友の会」という団体も手掛けていた。パンティーストッキングの普及を阻止するための団体だった。
70年代にFIFAの事務局に入り、強力な後ろ盾を得た。アディダスのホルスト・ダスラーと、25年にわたってFIFAに君臨したブラジル人のジョアン・アベランジェ前会長だ。
FIFA会長選挙では数がものをいう。サッカー発祥の地イングランドも、投票ではソロモン諸島やビルマ(ミャンマー)と同じ1票の権利しかない。当然、弱小国をごっそり味方に付けた者が勝つ。イギリスでの報道によれば、02年の再選に際してもブラッターはリビアのムアマル・カダフィ大佐が用意した飛行機で世界を飛び回り、現金と口約束をばらまいたとか。
情報源に甘かったメディア
しかし、どこの国でもスポーツ担当の記者は主催団体や関係者に甘く、FIFAの腐敗を鋭く追及する報道も行われてこなかった。選手やコーチ、チームのフロントなど限られた情報源を大切にせざるを得ないからだ。
それでもブラッター時代に入ってからの行き過ぎは目に余る。そしてついにイギリスのメディアが、18年と22年のW杯開催国を選ぶ過程での醜い騒ぎの内幕を暴露した。
イングランドは開催国の地位を勝ち取るべく数百万ポンドの大金を投じた。しかしFIFAの理事たちに直接手渡すことはしなかったため、大した役に立たなかったらしい。
理事の1人はサンデー・タイムズ紙のおとり取材に対して、ほかの2カ国は既に金を払ったと語り、別の1人は80万ドルを要求した。ブラッターはこの報道に、心が痛むと語った。
「世の中には悪がはびこっている。サッカーの世界も同じだ」という発言もある。彼は2人の理事の権限を一時停止し、「FIFAでは決して不正が行われないよう」、組織内の贈収賄の調査を行うと誓っている。
しかし、22年の開催国にカタールが選ばれたのはFIFAの体質に問題がある証拠ではないか。酷暑のカタールで夏にW杯を開くことには無理がある。FIFAは開催時期を冬に移すことも検討しているが、カタールは冷房完備だから心配ないとしている。
気候条件の問題だけでなく、選考の過程にも疑念がある。今はブラッター自身も、決定を見直す可能性を排除すべきでないとしている。