最新記事

アジア

「中国キラー」インドの知られざる国内事情と思惑

2015年5月28日(木)12時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

 さらにインドの法律は所有権を手厚く保護する。アパートの居住者は借家権を盾に低家賃のまま居座るので、大家は建物への追加投資を嫌う。高速道路や工場を建てようとしても、地元の農民が土地をなかなか売却しない。従って、インフラ建設で成長率の半分以上を稼いでいる中国のようなやり方はインドにはできない。

 このように経済がいま一歩だから、モディは就任後1年がたった今になっても、投資を求めて世界を行脚し、中国にもその面で大きな期待をかけている。

 インドは中国と山岳地帯で国境問題を抱えるが、最大の脅威とみているのはパキスタンである。消費財や建設業において、中国はインドに深く浸透している。スリランカなどインド洋方面への中国の影響力浸透がインドにとって危険だと言われるが、インド洋の制海権は米印豪がしっかり押さえている。インドは安全保障面で自立性が高い国なので、米、中、ロシアのどの国にも過度に傾かず、経済的利益を最大限絞り出す外交を続けるだろう。インドが中国に対するカウンターバランスとなる構えを米、日、ASEAN(東南アジア諸国連合)、オーストラリアなどに見せてくるのは、中国との同等性を確保するためだ。

 日本では、中国に代わる投資先、あるいは中国の台頭を抑える存在としてインドに期待する向きがある。近年のインドはかつての中国に代わって、日本の円借款の最大の受取国(毎年4000億円近い)になっている。

 しかし、インドをあまり安易に考えないほうがいい。インドへの直接投資は現地当局や住民との複雑な交渉を必要とするし、インドは中国と張り合う一方で深い提携関係にもある。過剰な期待を持たず、双方の利益になる方向でじっくりと付き合っていくべき相手だろう。

[2015年6月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ダルトン、フジHDにSBI北尾社長ら12人の取締役

ワールド

米政権、通信社の代表取材を交代制に制限 ロイター・

ビジネス

午後3時のドルは142円前半に軟化、米関税の影響警

ビジネス

中国が通商交渉官を交代、元WTO大使起用 米中摩擦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中