国際法廷では裁けないISISの残虐行為
「戦争犯罪」と認定すべきとの声もあるが、簡単にはいかないこれだけの理由
虐殺 ティクリートではISISに殺害されたと思われるイラク兵の大量の遺体が発見された Reuters
悪名高きテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の残虐行為は「戦争犯罪や人道に対する罪、あるいはジェノサイド(民族大虐殺)に相当し得る」。国連イラク支援ミッションと国連人権高等弁務官事務所は先頃、そう結論付ける報告を発表した。民間人の大量虐殺や女性の性奴隷化、児童虐待、拷問など、ISISによる非道な人権侵害行為の数々は広く知られるところだ。
ISISはキリスト教徒やヤジディ教徒、イスラム教シーア派など、特定の宗派や民族を標的としてきた。イラク政府軍が奪還した要衝ティクリートでも、イラク兵の遺体が大量に発見されている。「兵士ら1700人を殺害」と豪語するISISの主張が裏付けられた格好だ。
こうした事実を突き付けられた今、ISIS壊滅のための熾烈な戦いに加えて、国際社会にできることは何か。
ISISの指導者らをオランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)で起訴すべきだという声は高まる一方だ。だがICCのファトゥ・ベンスーダ検察官は、ISISは「口にするのもおぞましい数々の犯罪」を犯してきたが、ICCの権限で起訴することは難しいとする。当該の犯罪行為が起きたイラクとシリアは、ICCの起訴手続きを規定した国際条約に加盟していない。名前の割れているISIS幹部の国籍はこの両国にあると思われるから、ICCは原則として手を出せない。
ただしICC加盟国の外国人戦闘員(例えば処刑ビデオに頻繁に登場するイギリス人の「ジハーディ・ジョン」ことモハメド・エムワジ)なら、理論上はICCで裁くことができる。だがそれは、締約国の請求があった場合に限られる。またICCが非加盟国で犯罪捜査に着手するには、国連安保理による付託という手続きが欠かせない。