国際法廷では裁けないISISの残虐行為
身内をかばう大国の思惑
だが安保理による付託には常任理事国の賛成が必要となる。おそらくロシアと中国は拒否権を行使するだろう。両国ともISISを支持してはいないが、「人権」の名の下で国家主権が侵害されることは嫌う。11年にリビアをICCに付託した際は両国とも賛成したが、NATO軍による軍事介入とその後の混乱を見せつけられた今、おとなしく賛成するとは思えない。
またロンドン大学東洋アフリカ研究所のケビン・ジョン・ヘラー教授(国際刑法学)によれば、「国連安保理はICCに対し、ISISの犯罪だけを裁き、他の組織の犯罪には目をつぶるよう求める」ことはできない。ICCの設立条約が、そうした「偏った付託を排除している」からだ。つまり、ある紛争についての付託を受けた場合、ICCはその紛争に関わるすべての犯罪を捜査し、裁くことになる。
当然、シリアのアサド政権による非道な人権侵害も捜査対象となるが、同政権の後ろ盾となっているロシアはそんな事態を歓迎しないだろう。シリアでは欧米諸国の支援する一部勢力も平気で拉致や拷問を行っているし、ISISと戦うシーア派の武装勢力によるスンニ派住民への報復も伝えられる。ISISほど組織的でも残忍でもないかもしれないが、起訴されれば有罪は必至。身内をかばいたい大国の思惑が交錯する。
国際法廷がISISにジェノサイドの罪を適用すれば、彼らと戦う勢力への追い風になるだろう。しかし今はまだ司法の出番ではない。ヘラーが言うように、「まずは幹部を捕まえること。起訴はその先」だ。
© 2015, Slate
[2015年4月21日号掲載]