最新記事

少数民族

ミャンマーにクリミア型侵略? 中国系住民と共産党の「絆」

北東部でミャンマー軍と中国系コーカン族が武力衝突。習近平政権は本当に何の援助もしていないのか

2015年3月5日(木)16時28分
楊海英(本誌コラムニスト)

東南アジアのクリミア 中国系武装勢力とミャンマー軍の衝突で家を追われたコーカンの住民(ラウカイ) Soe Zeya Tun-Reuters

 ミャンマー(ビルマ)北東部シャン州コーカン地区が先月から、戦火に包まれるようになった。政府軍が中心地ラウカイに突入して反政府勢力を制圧。非常事態宣言が発令されると現地の中国系住民は大挙して越境し、中国雲南省領内に避難した。コーカンの指導者たちが人民解放軍雲南軍区の軍営内に避難している姿も目撃されたという。

 中国の新浪ネットや微博(ウェイボー)では「コーカンは東南アジアのクリミア」「強大な中華民族の積極的な干渉を」と書き込まれた。退役軍人によるサイト「中国軍事論壇」では「コーカンの親中派を訓練し、武器弾薬も提供すべきだ」との論調も見られた。

 人民日報系の「環球時報」紙は「クリミアに例えるのは滑稽だ」と社説で当局の関与を否定したが、外務省報道官はいつもの甲高い声で「政府は事態の推移を注視している」と発言。政府の御用新聞らしからぬ弱気な論調は報道官の姿勢と奇妙にも食い違っており、かえって紛争の激化に中国の謀略が働いているのではと勘繰らざるを得ない。

 ネット世論を政権維持に利用する共産党政権の下では、基本的に政府の意向を反映した記事しか掲載できない。実際にはクリミアに例えたネット投稿は今なお黙認されており、習近平(シー・チンピン)国家主席も「友達プーチン」のまねをする可能性は否定できない。

ドラッグに群がる中国人

 約2000平方キロと大阪府ほどの広さのコーカンには約16万人の住民が暮らすが、そのうちの14万人は中国系。もともと土司と称する首長に統治されていたが、土司は清朝政府に貢ぎ物をして、任命権を獲得して権威づくりに利用してきた。清朝崩壊後に現れた中華民国は一時、自国領だと主張したが土司側とビルマ政府の反対に遭った。

 第二次大戦時、旧日本軍と盟友関係を締結し日本名も有していたネ・ウィンは、終戦間際にビルマ族中心の軍隊を結成。戦後は中国人民解放軍と共同作戦を展開し、国共内戦から逃れてきた中華民国の敗残兵を殲滅した。ネ・ウィンの協力に毛沢東は大いに感謝し、コーカンをビルマ領として正式に認めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中