世界が悩む身代金の大ジレンマ
言われるままに金を払えば、テロの拡大につながりかねない
命の代償 身代金が取れないと分かればより多くの命が救われる、という考えも Dean Rohrer-Project Syndicate
イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の思想にかぶれていない限り、人質を取って殺害するという彼らのやり方に賛同する人はいないだろう。だが、こうした組織に自国民を解放させるために身代金を払う一部のヨーロッパの国の決断については、議論が分かれる。
ISISの人質の国籍はさまざまだが、殺害されたのはアメリカ人とイギリス人のみだ。イギリス以外のヨーロッパ人で殺害されたと報じられたのはロシア人のセルゲイ・ゴルブノフだけ。もっとも、ロシア政府関係者は彼がロシア人かどうか疑わしいと公式に発言している。
その一方でISISは、イタリア、フランス、スイス、デンマーク、スペインなどの国籍を持つ人質15人を解放している。ジャーナリストのルクミニ・カリマキはニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、人質の扱いの違いを次のように解説する。
──英米はテロ組織に身代金を払わない方針を貫いている。ISISの人質になったアメリカ人記者ジェームス・フォーリーの家族は身代金の要求に応じようとしたが、FBI(米連邦捜査局)からテロリストへの身代金支払いはアメリカの法律では犯罪に当たると警告された。フォーリーは後に殺害された。
一方、ヨーロッパ諸国はかなり前から、自国民の人質解放に巨額の身代金を払っている。これは国連安全保障理事会が昨年1月に採択したテロ組織への身代金支払いに反対する決議や、13年のG8サミット(主要国首脳会議)の宣言にも反する。この声明に署名しながら、まだ身代金を出している国もある──。
カリマキによれば、身代金の支払額が最も多いのはフランスで、08年以降の総額は5800万ドルに上る。だが、この方針も変わってきたのかもしれない。
昨年9月にフランスがISISへの空爆に参加した報復として、アルジェリアのテロ組織がフランス人のエルベ・グルデルを拘束したとき、フランス政府は決然とした態度を取った。作戦参加をやめなければ人質を殺すと脅されたが、マニュエル・バルス首相は一歩でも譲歩すれば過激派に屈することになると語った。グルデルは殺害された。