イスラムへの憎悪を煽るパリ週刊誌銃撃事件
イスラム教を風刺した週刊誌襲撃でトクをするのは極右だけだ
募る危機感 シャルリ・エブド襲撃事件の犠牲者を悼み、表現の自由を求めるパリ市民 Youssef Boudlal-Reuters
フランスのシャルリ・エブドはあらゆる宗教を風刺してきた。イスラム教も例外ではない。特にイスラム過激派は同誌にとっては格好の笑いの種だった。
同誌は06年にデンマークの新聞に掲載されて問題になったイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を再掲載。11年にはパロディー版シャリーア(イスラム法典)を巻頭特集にし、表紙の風刺漫画で「客員編集者」のムハンマドに「これを読んで笑い死にしなかったら、ムチ打ち100回の刑」と言わせて物議をかもした。12年には裸でポーズをとるムハンマドの風刺画を掲載。最新号の巻頭特集では、イスラム過激派に支配され、女性が抑圧される近未来のフランスを描いたミシェル・ウエルベックの小説『服従』を紹介していた。
一部のターゲットにとっては、同誌のこうした内容は笑い事では済まされない。11年には本社ビルに火炎瓶が投げ込まれて火災が起きた。編集部にはその後も脅迫が繰り返され、公式サイトがハッカーに荒らされたこともある。
そして7日の襲撃だ。覆面をした男たちが侵入して銃を乱射し、編集長らスタッフ10人と警官2人を射殺した。男たちは犯行時、「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫び、ツイッターに「預言者のための報復」というアラビア語のハッシュタグ付きで襲撃画像をアップした。
パリ警察は容疑者3人の身元を特定。うち2人は34歳と32歳の兄弟で、パリ生まれのアルジェリア系だという。もう1人の18歳の男は7日深夜にフランス北部の警察署に出頭した。
彼らはイスラム教の名誉を守ると称しているが、その行為は逆効果だ。アッラーの名の下に殺人を犯せば、イスラム教徒は過激で危険だという偏見を助長することになる。穏健なイスラム教徒がいくら否定しても、風刺の現実味は増すばかりだ。
シャルリ・エブドのターゲットはイスラム教だけではない。最新号にはキリストの存在に疑問を突きつける議論のパロディーが掲載されているが、キリスト教徒が編集部を銃撃することはない。今回の事件で死亡した編集長のステファン・シャルボニエは11年に本社が放火されたときにこう語っている。「(われわれは)多くのテーマに対して挑発的だが、イスラム過激派を扱ったときにかぎって暴力的な反応が起きる」