最新記事

現地取材

ウクライナ紛争の勝者はどこに?(後編)

2014年12月24日(水)12時31分
オーエン・マシューズ(元モスクワ支局長)

 ベレジンは今年の4月、ドネツク人民共和国の副国防相に就任している。白い口ひげを生やした50代半ばの男で、フライドチキンのカーネル・サンダースと『地獄の黙示録』のカーツ大佐を足して二で割ったような感じだ。

「戦争が始まったとき、君がなりたいのは司令官かクリエーターかと聞かれてね」と、彼は語りだした。「ロシアに逃げることもできた。だが逃げるよりここに残り、戦い、紙の上だけではなく、この世界で新しい現実をつくり出そうと決めた」

 ベレジンは、控えめに言ってもエキセントリックな考えの持ち主だ。彼によれば、人間は皆、複雑なプログラムでコントロールされたマトリックスに暮らしていた。「ファシズムはリベラリズムの究極の形」であり、今日ウクライナで起きていることは、貴重な資源をめぐって世界各地で徐々に始まっている争奪戦の一部だという。

「01年の9・11は第3次世界大戦の始まりだった。帝国主義者たちはあの日、有限な天然資源を手に入れるためなら、なりふり構わず戦争を仕掛けるという決断を下した。その戦争がイラクで始まり、やがてシリア、リビア、そしてウクライナへと飛び火した。これに対抗できるのはロシアだけだ」

 世界規模で紛争が展開するというのはベレジンの好むテーマらしい。09年の著作『2010年の戦争 ウクライナ戦線』では、地対空ミサイルで旅客機が爆破される場面も描いている。数年後の事件を予言したような本だが、そこではクリミア半島の紛争が世界大戦の引き金になったとされている。

 ベレジンはプーチンより2歳年下だが、同世代の多くがそうであるように、彼も民主主義と資本主義については複雑な思いを抱き、ソ連の崩壊は残念だったと思っている。「ソ連が1930年代に大勢の人間を殺したことは認めるが、あの犠牲はやむを得ないものだった。70年代には、誰もが必要な物を手に入れ、ゆとりのある暮らしを送っていた。

 だが90年の共産党一党独裁の廃止とそれに続く大混乱はどうやっても正当化できない。今となっては、あれは紛れもなく不当なジェノサイド(大量虐殺)だった」

 ベレジンの信ずるところに従えば、ノボロシア連邦が樹立された今は「良識と公平」が維持されていたソ連の黄金時代に回帰する絶好の機会であるらしい。「昔はアルコールと薬物の依存者を厳しく取り締まり、軍隊のために塹壕を掘らせたものだ。最近は警察への賄賂が横行していたが、もうやらせない。私たちが目指すべきは、個人よりも社会が優先される世の中だ。腐敗した欧米の価値観は認めない。同性婚も許さない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアのロスアトム、震災でもミャンマー原子力発電所

ワールド

シンガポールのコアインフレ率、3月は21年6月以来

ビジネス

大成建、25年3月期業績・配当予想を上方修正 工事

ビジネス

2月第3次産業活動指数は前月比横ばい、判断「一進一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 9
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中