最新記事

現地取材

ウクライナ紛争の勝者はどこに?(後編)

抗議デモから1年。親ロ派勢力が独立を宣言したドネツクで見つけた「革命」のグロテスクな姿

2014年12月24日(水)12時31分
オーエン・マシューズ(元モスクワ支局長)

ウクライナ領内で拘束されたロシア兵 Valentyn Ogirenko-Reuters

 「ウクライナ紛争の勝者はどこに?(後編)」より続きます。

 公共の場所はスプレーペイントの落書きだらけだ。愛国的なカップル名の落書きもある。「レナ+パシャ=ロシア!」。カフカスからの志願兵(事実上の傭兵)も、誇らしげな落書きを残していた。「チェチェンはドネツクの味方」だと。

「宣伝と扇動の専門家」として親ロシア派勢力に参加しているセルゲイ・フェドレンコは、以前は大学で歴史を学んでいた青年だ。たばこを吸うならトイレに行け、と彼は私たちに命じた。

 窓は破れ、室内は荒らされた状態だが、清く正しい生き方を貫く反乱のリーダーたちは、たばこを毛嫌いしているらしい。

 この戦争は何のためか、と私は彼に尋ねた。

「戦争は望んでいないが、ほかに方法はない。キエフの親欧米派が旗を振りながら独立広場を跳ね回っていたとき、私たちはドネツクで働いていた。当時は自分をウクライナ人だと思っていた。だがキエフの連中が武装してやって来たので、身を守ることにした。私たちが求めているのは自治の権利だ。ここは私たちにとっての『マイダン』だ。あいつらと違って、私たちはキエフまで攻め込んだりしない」

 州庁舎のロビーに戻ると請願者の姿は消え、反乱軍のお偉方たちが集まっていた。指導者たちとそのボディーガードは、完璧な外見を装うために鏡の前で長い時間を費やしたに違いない。革の指なし手袋やアメリカ製の膝パッドなど、みんな流行のアイテムで決めていた。

 日が暮れ、午後11時の外出禁止時刻が近づくと、街路からは人影が消える。建物の窓で明かりが見えるのは、せいぜい3分の1にすぎない。

 私はキューバをテーマにした地下のバー「ハバナ・バナナ」に行った。インテリアはスラブ風ハワイアンだ。ドネツクで最も有名な作家フョードル・ベレジンが、武装した護衛と共に到着した。ベレジンは未来の軍隊が登場するSF小説を22冊も書いている。テーマはよみがえったソビエト連邦と退廃的なアメリカの壮大な戦いだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中