それでもフリーランス記者は紛争地へ向かう
記者の情熱に付け込む
中東を7年間取材しているピーターはクリスチャン・サイエンス・モニターと契約しているが、医療保険などは自腹。紛争地帯での保険に加入するために、ピーターは2700ドルを払ってイギリスで「敵対的環境」に向けた訓練を受けた上、毎年600ドルの保険料を払っていた。06年に初めてイラクに行ったときは保険なしだったと言う。戦地報道への情熱を燃やす若いジャーナリストには珍しいことではない。
そうした情熱がしばしば利用されることもある。資金繰りの苦しい報道機関は、危険を承知で自ら戦地に向かう勇敢な記者に付け込む。
「編集サイドは危険地帯からのリポートを望むが、対価は払いたがらない」とピーターは言う。「国際報道のビジネスモデルの一部が、記事を世に送り出したいがために自腹で前線へ飛び込み危険を冒すフリーランスに依存していると思うしかない」
一部の報道機関は競合相手への「相乗り」さえ試みることもある。既に別の報道機関から記事を頼まれているジャーナリストに仕事を依頼するのだ。「同業者はみんな経験している」とピーターは嘆く。「『イラクにいるなら、うちにも書いてよ』なんてしょっちゅうだ。まるで私がバグダッドでぶらぶらしているかのように」
シリアが危険なのは周知の事実だから、フォーリーの死によってジャーナリストの足が今以上に遠ざかることはないとピーターはみている。それでも報道機関は戦地を取材する記者の安全対策を万全にすべきだ。
「『これをしろ、あれはするな』と言ってくれる専門のアドバイザーがいるのは、CNNやBBCといった大手だけ」と、ピーターは言う。「たいていは記者の自己判断に委ねられる。だからフォーリーも自分で考えて行動するしかなかったんだ」
[2014年9月 2日号掲載]