最新記事

ペルー

マチュピチュの神秘に迫る危機

新空港建設による経済効果が期待されるが遺跡や自然環境、伝統文化が破壊される心配も

2014年7月23日(水)17時03分
シメオン・テゲル

空中の楼閣 マチュピチュは憧れの観光地であり続けられるか Mariana Bazo-Reuters

 インカ帝国のマチュピチュ遺跡といえば、誰もが憧れる秘境の観光地。だが近い将来、もっと気軽に行ける場所になりそうだ。ペルー政府が、この空中都市とクスコの間にある谷に新空港の建設を認可したからだ。

 現在の最寄りの空港はマチュピチュまでバスや電車で数時間かかるクスコ市内にあり、年間の利用者は200万人。一方、アルゼンチンとペルーが共同で建設する新空港は、2020年のオープン時で年間500万人、将来的には800万人の利用者が見込まれる。

 新空港が貧しい地域に富をもたらすと歓迎する人は多い。「観光、商業、経済発展の扉を開き、人々の生活をすっかり変えるだろう」と、クスコ州知事のレネ・コンチャは言う。

 一方で懸念の声もある。多数の観光客が押し寄せると遺跡や周辺の環境が損なわれ、独特の文化が失われるというのだ。実際、破壊の波は既に広がっている。ここ10年ほどでホテルが爆発的に増え、マウンテンバイクやバンジージャンプ、ヨガなどのサービスを提供する旅行会社が聖なる谷を占領している。

「伝統は消えていく」と、手作りの織物を売って暮らすマーレニ・カヤナウパは嘆く。「新空港はインカの大地の神パチャママにとどめを刺すだろう」

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)も12年、マチュピチュを観光客の波から守るため緊急措置を取るべきだとペルー政府に提言した。その少し前にはヘリコプターでのマチュピチュ観光を禁止させている。ひと握りの富裕層が乗るヘリの爆音で、一般の観光客の生涯に1度の体験が台無しにされていたからだ。

 遺跡の近くにあるマチュピチュ村や付近の村々でも、観光客からぼったくる商売ばかりが増えた。「この地域は無法地帯と化した」と、ペルー・カトリカ大学の遺跡管理の専門家ホセ・カンシアニは言う。「誰でも好きなように聖なる谷で商売を始められる。文化や自然環境の保護はまったく考慮されない」

 新空港賛成派の中にも、独自の文化の消失を心配する人はいる。「豊かさはいや応なく変化をもたらす」と、クスコの商工会議所長を務めた法律家のファウスト・サリナスは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中