「進撃の極右」が映し出すもの
欧州議会選で国民戦線が大躍進。社会党の経済政策の失敗を追い風に、ルペン党首は大統領の座も視野に入れる
圧勝の衝撃 ルペン率いる国民戦線の大躍進にフランス政界は揺れている Eric Gaillard-Reuters
フランスの人気漫画の主人公アステリクスは、口ひげの豊かな古代ガリア戦士。ローマ帝国の支配に抵抗する彼の村を救うのは、村人たちに超人的な力を授ける魔法の薬だ。
21世紀の今、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が国難を訴えるとき、フランスは不屈のガリアの村に「先祖返り」したかのようだ。アメリカの大企業がフランス企業買収を画策しようと、移民がフランス人の職を狙おうと、EU(欧州連合)の官僚たちがフランスをグローバル化の大波にさらそうと、ルペンが率いるフランスは外国の脅威に敢然と立ち向かう。
「国家は国民に果たすべき守りを固める」と、ルペンは国民戦線が欧州議会でフランス第1党になった2日後に語った。
「アメリカとの自由貿易協定と闘い、EUへの主権移譲と闘い、(ドイツ首相のアンゲラ・)メルケルが主導するEUに押し付けられたさらなる緊縮財政と闘っていく」と、ルペンはテレビで語った。「われわれはフランスを守る」
こうした勇ましい言葉は、不況に苦しむ国には受けがいい。フランスは2桁の失業率に直面し、フランス人が謳歌してきた雇用安定や恵まれた労働条件、豊かな社会保障が脅かされるという不安に苦しんでいる。
国民戦線は先月末の欧州議会選挙でフランス国内最高の25%を超える得票を獲得し、不人気なフランソワ・オランド大統領率いる与党・社会党と中道右派野党の国民運動連合(UMP)は面目を失った。
「毒薬」経済政策に共感
ルペンの鼻息は荒いものの、フランスの病を癒やす魔法の薬まで持っているわけではなさそうだ。国民戦線が掲げる「愛国経済政策」は、ユーロ離脱とフランの復活、賃上げ、中国などによる「不公正」競争に対する貿易障壁の設置、外国人によるフランス企業買収の禁止、さらには中央銀行の独立権剥奪と財政出動を唱える。
多くのエコノミストはこの政策を、インフレの末に孤立と財政悪化を招く毒薬とみている。「無駄であり、まったく非現実的で実現不可能」と、フランス経済観測所のジェラール・コルニヨは一笑に付す。