最新記事

欧州連合

スイス国民投票で閉ざされる国境

EUなどからの移民を制限する提案を国民が可決。国境を越えた自由な往来を保障したEUの理想の終わりの始まりか

2014年2月27日(木)15時27分
ジョシュア・キーティング

僅差だったが 移民規制への賛成と反対を唱える広告 Denis Balibouse-Reuters

 スイスで今月9日に実施された国民投票の結果が、ヨーロッパ中に大きな衝撃をもたらしている。

 EU加盟国などから流入する移民を制限するという提案が僅差で可決されたのだ。投票は右派の国民党が主導したもので、西部のフランス語圏が反対、人口の多い東部のドイツ語圏が賛成と、国内をほぼ二分した。

 投票結果は、ヨーロッパで高まる移民排斥ムードを示しているだけではない。EU結成の大きな成果の1つは、域内の国境を自由に越えられるとする取り決めだが、この方針が続くかどうかという点に不安の影を落とした。スイスはEUに加盟していないものの、ヨーロッパ諸国間の国境検査を撤廃したシェンゲン協定には加盟している。

 英ガーディアン紙は「移民の規制は、これまでスイスに自由に入って働くことのできたEU市民にも適用される」ため、シェンゲン協定に反するものだと指摘した。

 欧州委員会はスイス・EU間の協定を見直す必要があると表明。同委員会のレディング副委員長はこう語った。「(ヨーロッパの)単一市場はスイスチーズのようではいけない。穴があっては駄目だ」

 スイスの国民投票の結果は、反移民政策を掲げるEU諸国の政党には歓迎されている。ノルウェーをはじめEUに加盟していない国も、シェンゲン協定からの脱退を検討していることを示唆している。07年にEUに加盟したブルガリアとルーマニアのシェンゲン協定への加盟には、EU内でも反対の声が大きい。

 EU首脳はギリシャがユーロ圏を脱退した場合には、シェンゲン協定を撤廃した上で新たな出入国管理規制を設けることを検討しているともいわれる。ただし今のところ、その可能性はかなり低そうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中