靖国参拝はお粗末な大誤算
「失望」を繰り返す米政府
慎重に言葉を選んだことがうかがえる声明だが、アメリカの政策関係者の間では、より大きな失望感が広がっている。米外交問題評議会(CFR)の日本研究員シーラ・スミスは、「アメリカでは、あえて米政府の懸念を無視した安倍の行動にいら立ちが高まっている」と語る。
米下院外交委員会の元首席補佐官デニス・ハルピンは、もっと過激な批判を展開した。ハルピンは、靖国参拝は真珠湾攻撃を指示した東条英機らをあがめるに等しい行為だと指弾。その上で真珠湾攻撃は9・11テロに次いで米本土に大きな被害をもたらした奇襲攻撃だから、東条をあがめるのはウサマ・ビンラディンをあがめるのに等しいと息巻いた。
これはあまりにも極端で奇妙な批判だが、一方で安倍の靖国参拝が北東アジア諸国の対立を悪化させるという米政府の公式見解は正しい。
だがそんな時だからこそ、日本とアメリカは静かな外交を続けるべきだ。同盟国は率直な意見交換をするべき時があるものだが、それは非公式の場でやるのが一番いい。
安倍の靖国参拝について米政府が発表した声明で最も注目を集めているのは、「失望している」という表現だ。
12月29日付の朝日新聞は、元外交官で京都産業大学教授の東郷和彦の次のような主張を紹介している。「同盟国に対して『失望した』と言うことの恐ろしさを知ってほしい。外交の世界で同盟国にこんなにはっきり言うのは異例だ」
だがもっと危険なのは、安倍に対する失望感がアメリカに定着してしまうことだ。東郷は言う。「万が一、中国との間で戦争状態になったとき、アメリカの世論は......中国を挑発するような愚かな国のために血を流す必要があるのか、ともなりかねない」
米政府が「失望」という表現を和らげる気配はない。国務省のマリー・ハーフ副報道官は12月末、「アメリカが失望したこと、そして(安倍の靖国参拝が東アジアの)緊張を悪化させると考えていることは、当初選んだ文言によって極めて明確に表現されていると思う」と語った。