最新記事

日本政治

靖国参拝はお粗末な大誤算

2014年1月14日(火)13時40分
J・バークシャー・ミラー(米戦略国際問題研究所太平洋フォーラム研究員)

「失望」を繰り返す米政府

 慎重に言葉を選んだことがうかがえる声明だが、アメリカの政策関係者の間では、より大きな失望感が広がっている。米外交問題評議会(CFR)の日本研究員シーラ・スミスは、「アメリカでは、あえて米政府の懸念を無視した安倍の行動にいら立ちが高まっている」と語る。

 米下院外交委員会の元首席補佐官デニス・ハルピンは、もっと過激な批判を展開した。ハルピンは、靖国参拝は真珠湾攻撃を指示した東条英機らをあがめるに等しい行為だと指弾。その上で真珠湾攻撃は9・11テロに次いで米本土に大きな被害をもたらした奇襲攻撃だから、東条をあがめるのはウサマ・ビンラディンをあがめるのに等しいと息巻いた。

 これはあまりにも極端で奇妙な批判だが、一方で安倍の靖国参拝が北東アジア諸国の対立を悪化させるという米政府の公式見解は正しい。

 だがそんな時だからこそ、日本とアメリカは静かな外交を続けるべきだ。同盟国は率直な意見交換をするべき時があるものだが、それは非公式の場でやるのが一番いい。

 安倍の靖国参拝について米政府が発表した声明で最も注目を集めているのは、「失望している」という表現だ。

 12月29日付の朝日新聞は、元外交官で京都産業大学教授の東郷和彦の次のような主張を紹介している。「同盟国に対して『失望した』と言うことの恐ろしさを知ってほしい。外交の世界で同盟国にこんなにはっきり言うのは異例だ」

 だがもっと危険なのは、安倍に対する失望感がアメリカに定着してしまうことだ。東郷は言う。「万が一、中国との間で戦争状態になったとき、アメリカの世論は......中国を挑発するような愚かな国のために血を流す必要があるのか、ともなりかねない」

 米政府が「失望」という表現を和らげる気配はない。国務省のマリー・ハーフ副報道官は12月末、「アメリカが失望したこと、そして(安倍の靖国参拝が東アジアの)緊張を悪化させると考えていることは、当初選んだ文言によって極めて明確に表現されていると思う」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中