靖国参拝はお粗末な大誤算
北朝鮮まで図に乗る恐れ
危険なのは、こうした日本に対する疑念と不透明感が少しずつ広がっていることだ。その意味では、米政府の声明は「失望」や「地域の緊張を悪化させる」という表現ではなく、「アメリカは遺憾に思い、地域の和解を求める」とするべきだった。
そんな生ぬるい表現では、靖国参拝という安倍の挑発的な行動を「おとがめなし」にしてやるようなものだという批判もあるだろう。その指摘には一理ある。しかし現在の東アジアにはもっと重要な問題がある。
CFRのスミスは、「安倍は中曽根(康弘)や小泉(純一郎)ら(靖国に参拝した歴代の首相)とは異なる課題に直面している」と指摘する。「領土問題、歴史と軍事力をめぐる微妙な問題、そして経済力の劇的な変化が合わさって、東アジアにはきな臭い雰囲気が漂っている。現在の日本は、安倍の前任者たちの時代よりもずっと大きな戦略的リスクを抱えており、ずっと複雑な状況にある」
安倍が靖国参拝を控えるべきだったのは、まさにこうした状況があるからだ。しかし参拝してしまった以上、アメリカとしてはそれを厳しくとがめることでこの地域の分断を刺激しないことが重要だ。
既にアメリカは、安倍の参拝が「地域の緊張を悪化させる」と述べたことで、この1年東シナ海で挑発的な行動を繰り返してきた中国を援護してしまった。もちろん米政府にはそんなつもりはない。日本もアメリカも、歴史問題を戦略的同盟と結び付けて考えていない。
だが今や中国も韓国も、日本とアメリカの間にはっきりとした亀裂を見いだしており、それを利用して、これまでの日本外しを肯定しようとするだろう。とりわけ中国は、昨年11月に東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定した自らの判断が正しかったという気になっている。
韓国政府も、安倍との対話をかたくなに避けてきた政策にお墨付きを得た気になっている。中韓だけではない。北朝鮮も、安倍の靖国参拝で日米韓3カ国の足並みに乱れが生じたと考え、これまで以上に大胆な挑発行為(例えば4回目の核実験)に乗り出すかもしれない。
いずれも東アジアにとって、幸先のいい新年のスタートとはいえない。こうした状況をつくり出した責任の多くは安倍にある。米政府の過剰反応が、この地域の不安定感と疑念を高めてきたのもまた事実だが。
[2014年1月14日号掲載]