最新記事

日本政治

靖国参拝はお粗末な大誤算

日本外交 「どうせ中韓との関係は改善しない」と参拝を強行し大ブーイングを浴びた安倍首相の甘過ぎる読みと不安な今後

2014年1月14日(火)13時40分
J・バークシャー・ミラー(米戦略国際問題研究所太平洋フォーラム研究員)

自己満足? 自らの信念を貫き靖国神社に参拝した安倍だが政治的にはタイミングが悪かった Toru Hanai-Reuters

 暮れも迫った12月26日、安倍晋三首相が靖国神社に参拝した。過去7年間、日本の首相は中国と韓国に配慮して参拝を自粛してきたが、安倍は2度目の首相就任からちょうど1年目にあたるこの日、参拝を決行した。

 まったく予期せぬ出来事だったわけではない。かねてから安倍は、首相1期目に靖国に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と語っていた。これまで参拝の意図を問う記者団に曖昧な返事を繰り返してきたが、ずっとチャンスをうかがってきたのは明らかだ。

 靖国参拝は個人的な信念に基づく決断だと、安倍は強調している。確かに安倍が言うように、どの国の指導者も戦没者に敬意を表する権利があるし、靖国神社については誤解もある。だがタイミングがまずかった。この時期に「個人的な信念」を優先させたのは戦略的な誤りだ。

 安倍としては、どうせ中国と韓国との関係は最悪なのだから、参拝してもこれ以上悪化しないという思いがあったのかもしれない。だがこれを機に中韓が、やはり日本は第二次大戦中にやったことを反省していないと勢いづくのは間違いない。

 最近の中国は東シナ海で挑発的な行動を繰り返し、韓国も「日本外し」の外交を進めてきた。そんな両国をアメリカが厳しくいさめてきたのに、安倍は靖国参拝で中韓に助け舟を出してしまったようなものだ。むしろ地域の緊張を高めかねないとして、自分が米政府の批判を浴びてしまった。

 中国と韓国との関係を考えたとき、安倍の靖国参拝が日本に戦略的なダメージをもたらすのは確かだろう。だが、その行動を必要以上に非難するのも危険だ。安倍の靖国参拝後、在日アメリカ大使館は次のような声明を発表した。

「日本の指導部が近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったことに、アメリカは失望しており、日本と近隣諸国が過去の難しい問題について建設的な対処方法を見つけることを希望する。......アメリカは、(安倍が)過去について深い反省の意を表明したこと、あらためて平和を誓ったことに注目している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪経常赤字、第4四半期は125億豪ドル 予想上回る

ビジネス

トランプ米大統領から電話受けてない=通貨政策巡り石

ワールド

欧州首脳、ベトナム訪問を計画 米関税リスク受け

ワールド

トランプ関税、競争条件公平にする計画の一環=ゴール
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    生地越しにバストトップがあらわ、股間に銃...マドン…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 8
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 9
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中