危険でもアフリカ目指す中国企業を待つ現実
資源争奪戦での「独り勝ち」を狙って危険地域にも大攻勢をかける中国だが、自国民と企業を守る体制は整っていない
積極攻勢 スーダンなど欧米が二の足を踏むような国にも中国企業は進出している Reuters
中国のアキレス腱があらわになった出来事だった。
2012年1月末、スーダンで中国人労働者29人が反政府武装勢力に拉致された事件は、中国が世界に経済的影響力を拡大する上で直面する弱点をあらためて浮き彫りにした。
世界の紛争地域で中国人が誘拐されたり襲われたりしたのは、これが初めてではない。5年前には、パキスタンで中国人技師3人が武装勢力に殺害された。1年前にリビアで内戦が始まったときは、中国政府が艦船と航空機を差し向けて3万人以上の中国人を救出したこともあった。
スーダンで拉致された労働者は程なく解放されたが、同様の事件は今後も起きるだろう。このため中国は対外進出路線、とりわけ天然資源の確保戦略を見直すよう迫られている。
中国政府が世界に経済的影響力を広げたいと考えるのは、不思議でない。中国経済は天然資源への依存度が高い。成長を続けるためには、エネルギーや鉱物資源を安定的に確保することが欠かせない。
問題は、天然資源の相場が極めて不安定なことだ。しかも、採掘しやすい油田や鉱山の多くは、既に欧米系の資源・エネルギー大手に押さえられている。
中国としては、不安定な天然資源相場と欧米系の多国籍企業に翻弄されずに天然資源を確保したい。国際市場や欧米系の多国籍企業を通さないで、戦略上重要な資源に直接アクセスできるよう、最大限の努力を払う必要がある──中国政府はかなり前からそんな結論に達していた。
欧米の兵力に「ただ乗り」
こうした認識は政策にはっきり反映されている。中国はこの10年、天然資源の争奪戦でどの国よりも積極的な攻勢をかけてきた。国有企業は国内の金融機関から超低利の融資を受けて、資金力を武器に他国の企業との競争を制して資源開発権を取得してきた。
政府の後押しの下、中国企業はスーダンやジンバブエ、コンゴ(旧ザイール)など、欧米の企業が二の足を踏むような国にも積極的に進出している。
しかしその結果、中国は深刻なジレンマに直面し始めた。新興経済大国にのし上がったはいいが、自国の企業と国民を守るために、世界の隅々に兵力を投入できるような体制は整っていないのだ。
大抵の場合は欧米諸国が安全を確保してくれているので、それに「ただ乗り」すればいい。例えば、アメリカ海軍が重要な海上輸送ルートをパトロールしているおかげで、中国船も安全に航行できる。中国が30億ドルを投じてアフガニスタンで開発している銅鉱山は、アメリカ陸軍に守られている。
それでも常にただ乗りができるわけではない。あまりに危険が大きく、さすがのアメリカも自国の兵士を送り込もうとしない国もある。スーダンがそうだ。
中国が資源確保を目指して、危険な国に単独で進出するのであれば、それ相応の兵力投入能力を築く以外に自国の権益を守る手だてはない。
しかし、それには莫大な予算が掛かるし、近隣諸国や欧米諸国の不安をかき立ててしまう。いずれにせよ、必要な軍事力を整えるには時間がかかるので、当座の安全確保のニーズは満たせない。